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「軽井沢さん、第一診察室どうぞ」
名前を呼ばれて、舞雪はぱらぱら捲っていた単語帳をポケットに入れて、立ち上がる。
白いカッテージチーズのような四角い形をした大学病院に通いだして一ヶ月。週に一回、簡単な診察とカウンセリングをして、微量の薬を処方してもらう。
自分は病気なんかじゃないと最初は抵抗していた舞雪も、心が疲れているんだよ、悲鳴をあげているんだよと若い医師……確か、上原という研修医だっけ……に言われて、そうなのかとようやく納得できるようになったものの、未だに病院は苦手だ。
消毒液の匂い、潔癖すぎるリノリウムの床、白い衣服を着た医療スタッフ、生活感が垣間見えない生と死を選別する非現実的な空間は、今まで風邪くらいしか引いたことのなかった舞雪にとってはどことなく恐ろしい、異様なものだ。
それでも、自分の壊れた心を修復するため、舞雪は渋々通う。
「こんにちは」
診察室に入り、舞雪は白衣を着たふたりの男性に挨拶をする。精神科医の渡辺と、研修医の上原だ。
「軽井沢さん、調子はいかがですか?」
椅子に座るよう勧められ、舞雪はゆっくりと腰を下ろす。
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