59人が本棚に入れています
本棚に追加
「最初の頃よりも、焦燥感がなくなったように思います」
母親に連れられてきたときと比べれば、自分は随分落ち着きを取り戻したように感じる。ただ、それが一時的なものなのではないかと舞雪は不安げに語る。
舞雪の目線は常に下を向いている。自信がないのか、医師と目を合わせることをせずに、ただ、自分が思っていることを整理して口に出す。
その行為を黙って見ていた上原が、舞雪の話が途切れるのを待って、声をかける。
「顔あげて」
「あ、はい」
俯いていた舞雪は、慌てて顔をあげる。
渡辺が舞雪の目を見て、ゆっくりと問いかける。
「最近、なにか、おかしいな、と思ったことは、ありますか。落ち着きを取り戻している分、どこか、また身体を酷使してしまったとか、そういったことはありますか」
渡辺の静かな問いかけに、舞雪はしばし考え込んで、首を横に振ろうとして、思い出す。
「あの、たいしたことじゃないと思うんですけど」
舞雪は学校でのちょっとした不都合を話す。ここ数日前から目が霞んでいるのか、黒板の文字が見づらくなったことを。
最初のコメントを投稿しよう!