第一部 天(そら)を乞う雪

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「最初の頃よりも、焦燥感がなくなったように思います」  母親に連れられてきたときと比べれば、自分は随分落ち着きを取り戻したように感じる。ただ、それが一時的なものなのではないかと舞雪は不安げに語る。  舞雪の目線は常に下を向いている。自信がないのか、医師と目を合わせることをせずに、ただ、自分が思っていることを整理して口に出す。  その行為を黙って見ていた上原が、舞雪の話が途切れるのを待って、声をかける。 「顔あげて」 「あ、はい」  俯いていた舞雪は、慌てて顔をあげる。  渡辺が舞雪の目を見て、ゆっくりと問いかける。 「最近、なにか、おかしいな、と思ったことは、ありますか。落ち着きを取り戻している分、どこか、また身体を酷使してしまったとか、そういったことはありますか」  渡辺の静かな問いかけに、舞雪はしばし考え込んで、首を横に振ろうとして、思い出す。 「あの、たいしたことじゃないと思うんですけど」  舞雪は学校でのちょっとした不都合を話す。ここ数日前から目が霞んでいるのか、黒板の文字が見づらくなったことを。
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