第一部 天(そら)を乞う雪

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 しゅんと項垂れた舞雪を見て、怒ってないよと上原は苦笑する。 「じゃあ軽井沢さん、眼科で精密検査をするから、いったん待合室に戻って」  渡辺が舞雪に呼びかける。舞雪は頷いて立ち上がる。 「単語帳没収な」  上原が舞雪の制服のポケットから、単語帳を取り出し、意地悪く笑った。    * * *  ぷしっ、ぷしっと左右の瞳に風が当たる。 「はいお疲れ様です、次は視力を測るので手前の椅子に座ってください」  検査技師に言われるままに、舞雪は検査を行う。両目共に視力は悪くなかった舞雪だが、裸眼視力が随分落ち込んでいたことを知り、唖然とする。  ……こんなに視力落ちてたんだ。 「じゃあ先生に診てもらいましょう」  暗幕で遮られた眼科診療室を指さされ、舞雪は頷く。 「軽井沢さん、どうぞ」  随分若い男の人の声だ。看護師がカーテンを開けて、舞雪に入室を促す。  暗くてドクターの顔はよく見えない。機械の前に座らされ、台の上に顎を乗せろと指示される。 「外見上は特に異常は見られないな……次、眼底見せて」  顕微鏡のレンズみたいなものが、目の中を覗きこんでいる。
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