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「ちょっと眩しいけど我慢して」
懐中電灯よりも明るく、眩しい光が一筋、舞雪の目の中に入り込む。
「……じゃあまず上の方見て。次に右、右上、左、左上、斜め下……」
落ち着いた、低い声が舞雪を誘う。視線を揺らし、医師の顔を、捉える。木梨だった。
……嘘。
舞雪が驚いた顔をして硬直しているのを無視して、木梨は看護師を呼ぶ。
「散瞳するんで、サイプレお願いします」
看護師の姿が消え、薄闇にふたりは取り残される。
……ど、どうしようふたりっきりだ。
舞雪があたふたしているのを余所に、木梨はカルテのデータを見つめている。
「舞う雪って書いてまゆき、なんだ」
人の気配がなくなってから、木梨がぽつりと呟く。
「あ、はい、そうです」
薄暗いので完全に顔を見ることはできないが、木梨の容貌を、生まれてから写真でしか見ることがなかった死んだ父親の面影と重ねて、舞雪は頷く。
「あの、このあいだの、人、ですよね」
おそるおそる、舞雪が問うと、木梨は困ったような表情で、微笑を浮かべる。
……あ。笑った。
「どうして逃げたの?」
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