第一部 天(そら)を乞う雪

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「木梨先生は、駄目だよ」 「どうして?」 「見た目がいいのはあたしも認めよう。でもね」  彼は、女癖が悪いから、近づきすぎるのはよくないわよ、と。  釘を刺すように、渋い表情で六花が口を尖らせる。    * * *  ふと思い出す。四月のはじめ、神経質そうな木梨が精神科の研修に入っていたときのこと。  六花は彼にしょっちゅう口説かれた。科を移った今も、病院で顔を合わせれば何かとふざけあったりしている。ただ、彼の気持ちが本当かどうかはわからない。勝手に舞い上がって傷つくのだけはイヤだから六花は本気にならないよう、自分の心に言い聞かせている。  一度だけ、不意打ちのようにキスされた。四月なのに雪が降っていた寒い日に。意味なんか知らない。知りたくない。  だから知らないふりをして、平然と日々を送っていた。  必要以上に彼を追いかけるのはやめようと思っていた、のに。  舞雪が彼に興味を抱いたことに、少しだけ嫉妬した自分がいることに、六花は気づいて困惑する。 「瀧川(たきがわ)さん」  舞雪と別れて、木梨のことを考えながら六花が外来棟に戻ると、上原に声をかけられた。
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