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「あ、上原先生、お疲れ様です」
「まゆちゃんは屋上?」
「ええ。あ、今日は単語帳を捲ってなかったですよ」
「そりゃあ僕が没収したからね。次来た時に返してあげるけど」
上原の大きな右てのひらに、蛍光ペンで縁取られた可愛らしい単語帳が乗っている。どうやら舞雪から没収したらしい。
六花は榛色の双眸を輝かせて誇らしそうな上原を見て静かに笑う。まったく、彼はあたしよりも年上のくせに、こどもみたいなことをする。
「先生は、心因性視力障害ってご存知ですか?」
六花が思い出したように上原に聞く。突然話題を変更された上原は不思議そうな表情で首を振る。
「名前は知ってるけど、実際に患者を診たことはなかったなぁ」
上原は研修がはじまった最初の月に眼科を経験している。だから知っているのだろう、六花はそんなに珍しい病気なんですかと首を傾げる。
「思春期の女の子しかかからない……ああ。まゆちゃんか」
六花が聞いてきたことで意味を理解したらしい。上原は舞雪が心因性視力障害だと知り、ふぅんと鼻の抜けた声をあげる。
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