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第一部 天(そら)を乞う雪
視線が絡み合った瞬間、少女の顔色が変わった。そして、何を思ったのか、踵を返して駆け出した。有名女子校の濃紺のセーラー服が翻るのを、青年は呆然と見送る。
その状況を見て、人々が疑わしそうな視線をその青年に向ける。二十代後半の、まだ若い医師に。
……俺に、非があるのか?
そもそも、大学病院の廊下で患者と研修医がすれ違うのは、当たり前のことじゃないか。なぜ彼女は俺の顔を見た瞬間、逃げ出したんだ?
男性恐怖症か? 対人恐怖症か? パニック障害か? それとも……いけない、他の科の患者に興味を持つなんて。自分が彼女の担当医であるわけでもないのに。
それでも、少女の顔が焼きついて離れない。精神科から出てきた、今にも消えてしまいそうな少女が、俺に見せた、驚愕の表情が。
「木梨先生、何ぼぉっとしてるんですか。患者さんお待ちになってますよ」
看護師にせっつかれ、木梨は思考を切り替える。
「わかってる」
気のせいだ。俺に女子高生の知り合いなどいないし、彼女とは面識もない。
心の中で言い聞かせ、彼は再び歩き出す。後ろを振り返ることは、もう、なかった。
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