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* * *
咄嗟に駆け出して、戻ってきてしまった待合室。空いていた椅子に腰掛ける。息切れがする。身体が震えている。止まらない。
「まゆちゃん?」
まゆと呼ばれた少女、舞雪は馴染みの看護師の姿を認め、俯いていた顔を上げる。ああそうだやっぱり六花さんだ。
安堵の表情を見せた舞雪の隣に座り、六花は静かに問いかける。
「忘れ物でもしたの?」
舞雪は無言で首を振る。違う、そうじゃないのと口にしようとして、気づく。
「あのひと」
舞雪が何に対して怯えているのか、六花にはわからない。ただ、少女の視線の向こうに、白衣を着た若い医師がいる。確か、彼は。
「木梨先生がどうかしたの?」
「木梨先生っていうの?」
遮るように、名を確かめる舞雪に、六花はおや、と思う。
異性に興味なんかないし、恋をするなんて面倒くさいと口にしていた舞雪が、初めて興味を抱いたのだ。男の人に。
だが、六花の想像を裏切るように、舞雪は呟く。
「なんか、こわい」
怖い? 思いがけない言葉に、六花は首を傾げる。
「どうして?」
びくり、と身体を震わせ、舞雪は六花の顔を見上げる。
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