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「死んだお父さんに、似てるから」
* * *
今年の春に病院に入って七ヶ月、もうすぐ冬が訪れる。
この冬は雪が降るのだろうか、積もるだろうか、もう、こどもでもないのに、未だに楽しみにしてしまう自分がいることを、木梨は否めない。
雪の夜に、木梨の母親は姿を消した。身重のまま、父親と別れを告げて。
父親は木梨が十歳になった時に再婚した。新しい母親は優しい人だった。二人の連れ子は、木梨をお兄ちゃんと嬉しそうに呼んでくれた。見た目は恵まれた家族、だっただろう。お金がかかるというのに、彼が医師になることを応援してくれたのも、家族の存在があったからだ。
だけど。何かを忘れている気がするのは、なぜだろう。
「お疲れ」
呆然と、藍色に染まった空を窓越しに眺めていた木梨に、一杯のコーヒーが注がれる。
見上げると、しわくちゃの白衣を着た栗色の髪の男。同期の上原だ。
「悪いな」
「気にするな。それより」
砂糖もミルクも入れずに、上原はブラックコーヒーをこくりと飲む。
木梨は砂糖を無造作に入れ、ミルクを注ぎ、一口。
「うちの患者に手ぇだしたか?」
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