美崎君へ

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 私自身もなんとか第一志望の大学に滑り込み、予備校に合格の報告に行った日に美崎君に会ったので「手紙を書くよ」と言ったら彼は一つ頷いて「はい、僕も書きます」と言った。なので、私たちは文通を始めた。  美崎君からの手紙はいつも、切り取ったキャンパスノートの白いページに線の細い達筆で書かれていて、真っ白い封筒の素っ気なさとは裏腹に、その文面からは北海道の自然の話や美崎君の日常が生き生きと読み取れた。青々とした新緑の間から差し込む柔らかいお日様の光や、吸い込まれそうな空の青色、しとしとと雨が降り続く日の灰色の景色、近所の人懐こい猫の柔らかい毛並み、おいしい食事、そういったことが沢山詰め込まれたその手紙を私は大切に箱にしまった。  こんな風に安心して友情を保てる男の子は美崎君しかいない、と思った。周りの若者たちが恋だ愛だと大騒ぎしている中で、自分たちがそんなものを超越した関係を築けていることが誇らしかった。  なんて浅はかな、あの頃の私。  私は、美崎君だって二十歳になるかならないかのただの男の子だという事実から目を背けたかった。美崎君は同年代の男の子たちと違って、恋だの愛だのと言った訳の分からないものに振り回されないんだというイメージ像を押し付けることで、美崎君の自由を奪って安心していた。だから、ある日彼から受け取った手紙を読んだ私は天地がひっくり返るほどの衝撃を受けたのだった。
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