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涙(下)
栞は部屋へ入っても何も言わない
落ち込んでいるのか?
怒っているのか?
どちらにしてもお門違いだ
私は冷蔵庫から500ミリの炭酸のペットボトルを出して
グラス二つに分ける
白いソファーの前に座る栞の前にそれを持っていき
あえて距離をとる様に向かい側に座った
「炭酸水しかないけど・・・どうぞ」悠
栞はうなずく
何を思っているのか?
何も言おうとしない栞を見ながら
私はグラスに口をつける
しばらくそんな感じで・・・
あまり遅くなってしまうと
いくら男の子でも帰りが危ない
そう思った私は栞から話を聞こうと思い尋ねる
「今日はどうしてここに来たの?」悠
栞は顔を上げて私の方を見る
涙の痕でキラキラした目元はいつも以上に綺麗
真剣に話を聞こうとしているのに
そんなことを思ってしまう自分が恥ずかしい
「あの人と付き合ってるの?」栞
小さな声
私は少し考えて
「まだ・・・まだ付き合っていない」悠
そう答えると
栞は膝を抱えて
また黙り込む
しばらくして
「まだっていう事は
付き合おうって思ってるの?
好きなの?」栞
何を思っているのだろう?
理解できない
私はお酒が入っていることもあって
いつもより感情的になって
「何が聞きたいの?栞は私にどうあってほしいの?
今日、来たのは何?
泣いている理由は何?
私はずっと思ってる
あなたが今まで私にしてきたこと
あなたにとっては行き当たりばったりの簡単な行動だったのかもしれない
だから
あなたは忘れてしまったのかもしれない
でも
私にとってはどれも特別で
いつもその度にあなたで一杯になって
なのに
直ぐ後には何もなかったかのように
私が勝手に勘違いしたかのように
夢から覚めさせられる」悠
気が付いたら私も目から涙が・・・
感情的に一気に話したから
栞はびっくりしている
栞は目元に少し残った自分の涙をぬぐって
「悠ちゃん
そんな風に思ってくれてたの?
知らなかった」栞
その言葉に私は赤面する
栞はそっと立ち上がって私の横に座りなおした
近い
私の頬に伝う涙を栞は指でなでるように拭う
私は照れてしまって下を向く
「好きだよ・・・悠ちゃん」栞
その言葉に血液が沸き上がる様に反応して体中が熱くなる
栞の顔を見る
大人びた表情で私を見ている
優しく微笑んでいる
私はこの目に本当に弱い
綺麗なオレンジ色の瞳には私が映っている
栞はゆっくり私を抱きしめる
柔らかくてあたたかい
甘い匂い
心地がいい
私は栞の背中を抱きしめる
栞は少し手を緩めて
私の顔を見る
ゆっくりと近づいてくる
キスされる
私は寸前で顔を横に向ける
栞は目を丸くして驚く
「いや?」栞
私は下を向く
栞はそれを覗き込む
「俺の事・・・いや?」栞
次は、結構強めにいう
私は少し考えて
「だって・・・だってどう考えていいか分からないし
次にキスしたら
私・・・あなたの事を好きになってしまう」悠
また涙が出る
栞はまたそれを優しくなでて
「ダメなの?俺の事・・・好きになっちゃダメなの?」栞
栞はかわいく尋ねる
こんなにかわいい子を私は異性としてみても許されるのだろうか?
「だって涼太の友達だし
7歳も年下の高校生だし
私はあなたを男の人として見てはいけない・・・気がする」悠
「キスしちゃいけない理由ってそれだけ?」栞
今度は不意に大人っぽい
私はゆっくり頷いた
彼女の事は言えなかった
栞は私を優しく床に押し倒して拘束するように両手を握った
「俺、男だよ
悠ちゃんはまだ知らないかもしれないけど・・・」栞
栞は今までにないくらい男らしく大人っぽく色っぽい
ゆっくりゆっくりと優しく顔を寄せて
キスをした
何度も何度も合わせた唇は柔らかくて心地よい
栞の体温が入ってくるようで
私は彼に溶かされるようにゆるゆるになっていく
ずっと前に交わしたキスとは違い
濃厚で体の奥まで奪われるよう
素敵すぎて
もう私は彼しか見えなくなってしまう
さっきまで仔犬のように潤んだ瞳で膝を抱えていたいた少年は
もうここにはいなかった
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