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曇りのわけ
彼に初めて会ったのは・・・
そう、そうそう
ずっと以前の事だった
私たち家族がこの町に越してきたのは
私が高校に上がった年齢だった
弟の涼太(りょうた)小学3年生で
幼稚園から一緒だった友達と別れることを
ギリギリまで嫌がっていた
きっと全く知らない土地で
一から友達ができるのだろうか?と不安に思っていたのだろう
しかし
活発で社交的な涼太はすぐにみんなの人気者となり
そんな不安はあっという間に立ち消えた
夏休みになるころには
弟の周りにはたくさんの友達がいて
毎日のように
リビングではゲーム大会が開かれていた
母が外出しているため
今日も私は涼太の保護者役
付きっきりではないが
小学生だけを家で遊ばせておくわけにはいかないので
なんとなく視界に入る場所でスマホゲームをしていた
「涼太のお姉ちゃん」
その声に顔を上げるとそこには可愛い女の子
毎日のように家に集まる涼太の友達は
最近では固定されてきて
今日来ている4人はほぼ毎日入り浸っていた
その中で唯一ひとりだけ女の子が混じっている事にけっこう以前から気が付いてはいた
少し長めのショートカットで
透き通るように肌が白く
色素が薄いせいか
瞳はほんのりオレンジ色でかなりの美少女
きっとそれなりの年頃になったらモテるだろうな・・・と思わせる
その子は仲間の中でも涼太と一番の仲良しのようで
いつも二人は横並びにくっついて座ってケラケラ笑いあっている
”もしかして・・・彼女?”
”まだ弟は小学3年生
いくらオマセだからって・・・まさかね”
”姉の私でも彼氏なんてまだいないのに
小学生に先を越されるなんてありえないしね”
心の奥でそんなつぶやきをしながら
目の前の美少女を見つめていると
「涼太のお姉ちゃん可愛いね」
そう言って天使のような笑顔をしている
私は数秒それに見とれると
”はっ”と我に返って
「ありがとう
あなたも可愛いね」悠(ゆう)
そう言うと
その子はあからさまに表情を曇らせて涼太たちの所に戻っていった
それはなんとも切ない雰囲気で
よく分からない空気感が私の心に残った
その夜
夕食を済ませた後
プリンを食べながらゲームをしている涼太に珍しく私から話しかけた
「涼太、いつも涼太の隣に座ってる子いるでしょ?」悠
「ああ、栞(しおり)?」涼太
「栞ちゃんっていうんだ・・・かわいい子だね」悠
「そう?」涼太
「もしかして~彼女だったりして」悠
すると涼太はやりかけていたゲームをポイっと投げ捨てて
私を睨みつけた
”もしかして、ずぼし?”
私は涼太の表情を見て次の答えが来までの間
なぜか緊張する
「彼女なわけないだろ!!キモイこと言ってんじゃねーよ!!」涼太
可愛い弟がいつになくムキになって噛みついてくる
眉間にしわを寄せて本気で怒っている弟に私は動揺をする
「だって
栞ちゃんはいつも来てるし
涼太と一番仲がよさそうだし
あんなにかわいい子だから涼太だって”ドキッ”としちゃうんじゃないかなって思ったんだよ」悠
「”ドキッ”って何だよ!馬鹿じゃねーの?
栞は男だぞ!!」涼太
「?」悠
私はその言葉に時間が止まる
「姉ちゃんもしかして栞の事を女って思ってるとか?」涼太
涼太は右の口元をクイッっとあげて不敵な笑顔を見せる
私は自分の誤解に赤面する
「あいつ女に間違えられるの一番嫌いなんだよ!!
絶対にあいつにそんな事言うなよ!!!
少女漫画の読みすぎだろ!!変な妄想ぶち込んでくんじゃねよ!!
キモッ」涼太
涼太は本当に怒ってしまって
それからしばらく話もしてくれなくなった
姉として不甲斐ない
そして分かった
あの時の彼の表情の意味
曇ってしまったのは
私から”可愛い”なんて言われたから・・・
普通の男の子なら
別になんとも思わない言葉だったかもしれないけど
あんな容姿でいる彼にとっては
物心つく頃から何十回何百回といわれ続けた言葉で
”嫌な誤解をまたされた”
と思ってしまったのかもしれない
そう思うと
”悪いことをしてしまった・・・”
その言葉とともに私の心に彼が留まった
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