筆を執るにも至らない

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筆を執るにも至らない

 手紙をください、とあなたは言った。  遠い国にいるときは、したためたそれを飛ぶ鳥に託せば良いのだ、とも。  ――ああ、面倒なことを言う。そう思った。 『あなたが、私の忘れ物をそのたびに届けてくれるならそうしましょう。あなたがそれを面倒だと思わないなら、私も、そのたびに幾度でもしたためましょう』  そう返したら、あなたは面倒そうに顔をしかめた。  だから、私は笑ってあなたの傍を去った。  あなたは私の特別ではなかった。  私もあなたの特別にはなれなかった。  ただ、それだけの話。 〈了〉
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