序章

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序章

 「……あれ…星が(かげ)っている」  頭上を仰ぎ、独りごちる人。 「あの星、は……天皇があの星…天皇の近くにいる人…」  片目をすがめる。  何か、起きたのか。 「小さめ…子供かな。そして赤っぽい光…女性か」  となると…と、考え込む人。  すると、突然足音がした。 「助けてっっ!!」  何事か、とそちらに目をやると、小柄な人影が屋敷の廊を駆けていた。 「女の子…?」  その後ろに、いるのは…。 「……っ!」  とてつもない、邪気(じゃき)。 「──物の怪……!」  反射的に、駆け出す人。 「オン、アビラウンケンソワカ!」  右手で印を結び、標的を物の怪に定める。  不可視の風剣を作り出し、物の怪に振り下ろす。 「はあっ!」  物の怪は醜い叫び声をあげ、消えていった。  ぼうっと、突然現れた人を見つめる女の子。 「……あ、あの…ありがとう…」 「いや、いいんだよ」  職業柄、ね。と笑う人。 「陰陽師(おんみょうじ)、なの?」 「うん、そう。つい、(あやかし)を見ると反射的にああなるの」    陰陽師。  平安の都に出現する魑魅魍魎(ちみもうりょう)を祓い清め、天災を予言し、星を読んで様々な事を言い当てる。  それ故に、この時代には必要不可欠な存在。  皆、陰陽師へは尊敬の眼差しを向ける。 「あの、お名前は?」 「安倍(あべの)龍晴(りゅうせい)。あ、父上の話は出さないでね」 「……晴明(せいめい)様の、子孫?」 「んー、そういうことかなぁ」  曖昧に答える龍晴。 「で、君は?」 「藤原(ふじわらの)寛子(ひろこ)」  2人の出会いは、偶然なのか必然なのか。  今となっては、知る由もない。  これは──現在から1000年位前、平安の世で起こった物語である。
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