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それは、突然崩された。
代わり映えのないある日の昼下がり。部活も終わって、身支度をして、いつもの様に並んで歩く。そんないつも通りの帰り道。
つまらない様で、それでいて幸せな時間を壊したのは、誰かの叫び声だった。
「危ないッ!」
声と周りの人の視線につられ上を見上げる。
そこで目にした光景に、身体が動かなくなった。
――鉄骨が、落ちてくる。
足がすくんで動けない。
世界がスローモーションのように動きを止めた。
⋯死ぬのか。そう思った途端、何かが覆い被さってきて無理矢理倒される。と同時に鳴り響くけたたましい鉄の音。
その音に現実へと引き戻された私は、慌てて目の前にいる人を揺さぶった。
「先輩!!」
私に覆い被さるように倒れている先輩は、どんなに声をかけても微動だにしない。
鉄骨が乗ってるせいだ、咄嗟にそう判断した私は、なんとか鉄骨を退かそうと豌いた。しかし少女ー人の力なんかで折り重なった鉄骨が動くわけもなく、全く意味をなさない。
「⋯、ッ誰か!」
思い切り叫んだ。遠くから人の声は聞こえる。焦っているような、驚いているような、諦めているような、たくさんの声。
「誰か⋯!助けて!!」
寝転がっている状態で、上から圧迫されていて上手く声が出せない。それでも、死にたくない。その一心で叫んだ。叫ぶ私の頬に、何かが落下した。
無理矢理動かした右腕でそれを拭って見たと同時に絶句した。
⋯⋯血だ。
紛れもない、血の色だ。
そしてこれは疑いようもなく、目の前の先輩の⋯⋯⋯
「助けて!!」
考えるよりも先に叫んでいた。何度も何度も、声の限り叫んだ。
遠くで鳴り響くサイレン。怒号に泣き声、叫ぶ声。五月蝿いくらいの雑音に私の声は掻き消される。
「誰かッ誰か⋯!このままじゃ先輩が⋯ッ」
そこまで声に出して、思わず言葉を止めた。皆まで言ってしまえばそうなってしまう気がしたから。別に言霊なんて物を信じているわけじゃない。でも今は、何故だかそう思ったのだ。
叫ぶ声は届かない。だが、届かないから助けを待つなんてそんな悠長なことしていられるほど余裕はない。
待っていれば確実に先輩は死んでしまうだろう。
目の前で先輩が死んでしまうなんて、自分が何もできないだなんて、そんなのは嫌だ。絶対に嫌だ。
「誰かぁぁ!!」
もう無理だと叫び続けた喉が泣いた。誰にも届かないと涙が溢れた。死んでしまうと本能が怒鳴った。そんなの嫌だと心が叫んだ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、目の前で先輩が死んでいくなんてそんなの嫌だ。その一心で叫び続けた。
叫び続けたせいか酸欠になってきた頃、突然体にかかる重さが減った。同時に光が差して、誰かがいたぞと大声を上げたのが聞こえた。
「⋯ッここぉ⋯!!」
死にたくない、死んでほしくないの一心で、最後の力を振り絞って叫んだ。その声が届いたのか、光の中から誰かの手が伸びてきた。
徐々に視界が開ける。ぼんやりとした景色の中に光が足されてゆく。
⋯あぁ、助かったんだ。頭の何処かでそう感じた瞬間、私は意識を手放した。
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