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結局1人不気味な森に取り残された俺は、ムカつきながらも森から早く脱出すべく歩くことにした。
とはいえ何処が出口かなんて分からない。例え手元に方位磁針があっても出口なんか分からないのはご察しの通りだ。
山で遭難したのなら無闇に歩かない方が良いみたいなことがあるかもしれないが、残念ながらここは俺の知っている世界じゃないようだから助けなんてまず来ないだろう。それじゃ飢え死にするだけだ。
なのでとりあえず水を探しながら歩くことにする。
どれくらい歩いたか分からない。
ただ不気味な風と木の葉のざわめきで森が包まれる中、ふと聞き慣れない音が聞こえた。
自然と足がその音を辿る。それは何やら、ベルのような音だった。ベルといっても色々あるが、カウベルのような感じだろうか…?
そしてそのベルの音と一緒に、何か車輪の音のようなものも聞こえてきた。これは期待出来るかもしれない。森を抜ける道筋が見えた気がして、自然と早足になる。
さらに音を辿って遠目に見えたのは、やはり馬車だった。淡いランプで照らされて、割と悪路の中を進んでいる。俺は追い付こうと走ったが、馬車の方が速いのかなかなか追い付けない。
「おーーい!」
声を張り上げてみたが、それでも馬車は止まる気配がない。
とうとう走るのに疲れて歩きに切り替えたが、不思議なことにその馬車はずっと視界から消えないのだ。それはひたすら遠目に見える距離で前を走っているのだ。普通に考えたら怪しんで付いて行かないと思うが、この時の俺は色々ありすぎてパニックだった。要は普通の精神状態じゃなかったし、思考回路もめちゃくちゃだったと思う。とにかく森から出たくて、俺はその馬車を必死に追いかけた。
そうしているといつの間にか出てきた強い光の先へと馬車が吸い込まれていった。
やがて俺も、続いてその光の中へと飛び込んだ。
眩しくて思わず目をつむった。
ようやく目を開くと、そこには街が広がっていた。その街は俺の知っている街じゃなかった。
当たり前と言われれば当たり前かもしれない。ここは俺の知っている世界じゃないらしいから。どことなく中世ヨーロッパ風な感じがしなくもないけれど。
そんな印象を抱きながら、街の人々にどんな反応をされるのかと内心ヒヤヒヤしながら踏み込んで、唖然とした。
人全てが灰色だった。
人というシルエットが通りを普通に闊歩しているのだ。もはや言葉も出ない。神隠しにあった某少女も得体の知れない黒いもの達が闊歩する様を見て夢だの消えろだの言っていたが今ならその気持ちがよく分かる。俺も夢だと思う。思いたい。俺がこうして放心状態で突っ立っていても灰色の人々は気にも留めない。いや、気にするという概念がないんだろう。彼らはただひたすら通りを歩いているだけだ。
そんな灰色の群衆をぼんやりと眺めていたら、その中にやたらと色のある人物がいることに気が付いた。その人はつまらなさそうに歩いていたが、こちらに気付いたらしい。目をまん丸に見開いて、走り寄ってきた。
「おい!おい!大丈夫か?!お前さん、何処の奴だ?」
そのおじさんはぼんやりしている俺の肩を両手で揺さぶりながら聞いてきた。
「何処って…」
何処の奴なんだろう。日本、か?
「サーカス…じゃねぇよな…
まさか、いや、そのまさかか?」
何かぶつぶつ言っていたが、急に俺の手を引っ張り歩き始めた。
「えっ、ちょっ、なに?!」
引っ張られて、どこかの建物に押し込まれた。近くの椅子に座らされ、おじさんも座ったところで、彼は口を開いた。
「確認だがお前さん、こことは異なる世界から来たよな?」
「ええ?まぁ…」
状況をよく飲み込めていないが、そうと言えるだろう。
「どうやって来たのかは知らねぇが…
ここはあんたみたいな奴が来る所じゃねぇのは事実だ。とっとと帰りやがれ、と言いたいんだが」
おじさんは一旦言葉を切り、顔を顰めた。
「が?」
「…基本的に帰るのは難しいだろうな」
あー、なんか予想してたけどやっぱり無理ですかー。
俺は今猛烈に泣きたい。
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