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近くに見えるようで、山は遠かった。
ようやく山のふもとのシラビソの林にたどり着いたときは、すっかり疲れてしまっていた。
シラビソの林が終わると、山には大きな木の姿はなくなる。あるのはホシガラスがようやく隠れることができるくらいの茂みと、少しばかりの草の生えるところ。少し休もうと茂みのそばに下りようとしたとき、茂みの中から「助けて、助けて」という声が聞えた。
その茂みには2羽のイワヒバリの巣があった。その2羽が巣の中のたまごを狙っているヘビを追い払おうと一生懸命羽ばたいたりさえずったり、茂みの中で騒いでいた。
ホシガラスは、わざと大きな音をさせて茂みの枝に止まって、バサバサと羽ばたいた。枝が大きく揺れてヘビの身体に当たったので、ヘビは驚いて逃げていった。
イワヒバリたちは、まだブルブルと震えていた。
「ヘビはもういないよ。それじゃ。」
といってホシガラスが飛び立とうとするとイワヒバリたちが
「ありがとうございました。少しここで休んでいきませんか。」
と声をかけてくれたので、しばらく茂みのそばで休むことにした。
「助けてくださってありがとうございます。」
「どういたしまして。お役に立ててなによりでした。」
「ところで、あなたはどこに行くのですか?このあたりでは見かけないお姿ですが。」
「この山の白い色を少し私の羽にもらえないかと思って里の森から来ました。」
「白い色を・・・ですか。そういえば、もっと上のほうには白い鳥がいますよ。」
「そうなんですか。やっぱり白い山だから白い鳥がいるんですね。」
「それは分からないですけど、ライチョウという鳥です。ただ、ライチョウのいるところは、天気が変わりやすいですよ。今は晴れておだやかですけど急に強い風が吹いたり雪になったりカミナリがなったりしますから。」
「ありがとう。行って見ます。」
「気をつけてくださいね。天気が悪くなったら無理しないで戻ってきてくださいね。上のほうには、こんな茂みもありませんし。」
晴れて空は青く広がり、イワヒバリたちが心配したような天気になるような気配は全く感じられなかった。ホシガラスはイワヒバリにさよならをいって、上へ上へと飛んでいった。日が当たっているのに、黒いからだがちっとも暖かくなく、なんだか寒く感じるのが妙だと思うくらいだった。
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