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ヒュウガの後ろ姿に、手を振り、姿が見えなくなると、「さて」とやや背中を向けているクロサキを見た。
出来るだけ明るい調子でまた座ることを促すと、また同じように一拍遅れてから座った。
顔を俯かせ、少しでも相手のことを許していない雰囲気を持たせている彼に、まだ緊張をしつつも、笑った顔を見せた。
「クロサキさんの意見を聞かずに、勝手に話を進めてしまってごめんなさい。放っておけなくて…」
「………」
「ヒュウガさんが言ってましたが、クロサキさんもどこから来たのか分からないそうですね。私もそうなんです。何故かここにいて、何もかも憶えていなくて…ですが、この白い花の名前は憶えていたのです」
自分の周りに咲いている花を愛でるように撫でる。
「あ、そうです!私に名前を分け与えてくれたこのお花に、クロサキさんにも分け与えましょう。お話が出来ますように、と」
一輪抜き、クロサキに差し出した。
が、興味も無く、見向きもしない様子だった。
困り笑いを浮かべた。無理もない。ほぼ初対面の人に心を開けるはずがないのだから。
「この白い花、クロサキさんの綺麗な髪色に似合いそうですね。挿してみてもいいでしょうか」
ふと、思いついたことを言ってみるが、反応を示さない。
「挿しますよ」と恐る恐る、だが、強引に挿そうとすると、少々身を引いたかのような動きを見せる。
それでも、無理やりに左耳辺りに挿すと「やっぱり!月の光に照らされて、しかも、黒い部分もあるので白い花が映えますし、より綺麗に見えますね!」と歓声を上げた。
そう言っていると、突然、顔を上げてきたのだ。
僅かながらに驚いているかのような、目を開いた表情をして。
「…………っ…」
何か言ったが聞き取れず、それも含めて「…えっ……?」と声を出すと、また俯かせてしまった。
一体どうしたものだろう。
しばらく驚いた顔をしていたが、クロサキがこちらに背中を向け、寝転んだことにより、ハッとした。
「眠いのですか?歌ってあげますね」
そうして、歌い始めた。
クロサキが次に起きるまで、ずっと。
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