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第一章 デイビッド、モレア王国の歴史を語る(2)
「今から、八十年ほど昔。アーサー・プランタジネットという男が、モレア王国を治めていました。当時、モレア王国には、力の強い魔法使いが二人いました。一人は、ジェニー・ナバラという女性の魔法使いです。人類史上もっとも魔力が強く、また、その心はハッカのように清らかでした。彼女は、私利私欲というものを知らず、ひたすら国のために力を尽くしました」
「それじゃ、僕の父上と一緒だね」
王子が、朗読の途中で声を出した。僕は、教科書から王子に目を移した。
「だって、僕の父上も、国のために日夜力を尽くしているもの。そうだろう? デイビッド」
「はい、王子」
僕がうなずくと、王子は誇らしげに微笑んだ。僕は、かすかに鼻でため息をついてから、再び朗読を始めた。
「いっぽう、もう一人の魔法使いは、クラウス・フォルクという名の男の魔法使いでした。クラウスは、ジェニーに勝るとも劣らないほどの魔法の使い手でしたが、その心は醜く、味方であっても気にいらなければ簡単に殺してしまうような、獰猛な性格をしていました。しかも、欲の深い男でした。クラウスは、モレア王国を手中に収めようと、アーサー王に戦いを挑んだのです」
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