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第一章 デイビッド、モレア王国の歴史を語る(1)
この物語を語るには、どこから始めようか。
たぶん、モレア王国の歴史から始めたほうがいいだろう。といっても、そんなに長い歴史じゃない。八十年前の話を、ほんの少し語るだけでいい。
とすれば、始まりはあの日になるだろう。僕が、ヘンリー王子の勉強をみていたときだ。僕は、王子の家庭教師というわけではないのだが、彼と親しくしていたので、たまにはこうして彼の勉強に付き合うこともあった。
その日、僕は王子の部屋にいた。海よりも青い絨毯を踏みしめて、歴史の教科書をぱらぱらとめくった。王子の部屋は、全体的に青い色調で統一されている。リネンのシーツも、カーテンも、細々とした陶器の置物も、微妙な色合いの差はあれど、とにかく青と呼ばれる色をしている。王子は、瞳も純粋なブルーで、髪は、日の光を受けるとグリーンに閃くカラスの濡れ羽色をしていたから、その部屋は王子によく似合っていた。
王子は、小さな白い机に向かい、銀粉を吹きつけた椅子に座っていた。机の角には、象牙を削って作られたクローバー模様の細工が施されている。王子は、その細工を指でつつきながら、僕が教科書を読み出すのを待っていた。
目当てのページが見つかると、僕は、いい加減くたびれてきた教科書を片手で持ち、息を吸い込んだ。そして、朗読を始めた。
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