捕獲

1/4
前へ
/110ページ
次へ

捕獲

side 彩人 それは突然の出会いだった 『タクシー代、立て替えます 幾ら払えば良いですか?』 ひと回り、いや、それ以上かもしれない まだ学生の匂いがするその女性は タクシー運転手と俺のやり取りに割り込んできた ・・・正気か? 一見したところ大人しめのその女性は 小振りな可愛いバッグを抱えて真っ直ぐこちらを見ている ・・・抱きしめたい 背が低い所為なのか それとも艶のあるストレートの黒髪か 色白の肌に少し垂れ目がちな大きな瞳 こちらを見る上目がちな表情は庇護欲を煽る 空港から乗ったから かなりな額なのに迷いなく財布からそれを出した その強い瞳に 一瞬で惹かれた 初めて湧いてきたその感情は 戸惑う間もなく 情欲のような激しい衝動を連れてきた 噛み付いて、俺のだと印をつけたい グチャグチャに甘やかして 俺以外見えないようにしたい 湧き上がる猟奇的な思いに一瞬蓋をして 紳士的な笑顔を見せながら 携帯番号を教えて貰った 「さて」 小さくなる彼女の背中を目で追いながら 頭の中は全く別のことを考えていた ビジネスバッグとトランクを持って 歩道へと入ると一目散に交番へと足を向けた 落としたのかスられたのかは不明だが 財布が無いことに変わりはない 駅前の交番で遺失届を出して 電話を借りて会社に電話した 大学の途中で起業した会社は 十五年目で成長中 友人で秘書の金森勝利(かなもりしょうり)は 現状を話すと大笑いした後で迎えに来てくれた 「で?」 「そのスーパーヒーローは?」 「いや、スーパーヒロインだな」 「え?」 「女の子だ」 「は?」 「見たところ社会人だけど 新卒か二年目ってとこだな」 「へぇ」 「で、ホテル住まいやめる」 「なんで?」 「彼女を落としたい」 「は?」 「一目惚れだ」 「・・・は?気は確かか彩人 女は身体だけ、名前も覚えない 『次は』って強請られたら即終了の 鬼畜男だったはずだぞ?」 「・・・マジか」 「え、気付いて無かったとか言わないよな?」 「いや、気付いてない」 「アチャ、お前、刺されるぞ?」 「それは困るが、護身術は完璧だ 心配ないだろう」 「いや、そういう問題かよ」 「過去は変えられないから これからの俺に期待してくれ」 「へいへい」 茶化してはいるもののホッとした様子の勝利に俺も肩の力が抜けた
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3602人が本棚に入れています
本棚に追加