一目惚れという運命

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一目惚れという運命

ーーーーー霜月 仕事帰りにいつものように駅までの道を歩いていた 広めの歩道は帰路を急ぐ人の波で溢れていて 社会人一年目の私は、その波に乗るのに精一杯 いつもなら僅かな段差に、履き慣れないヒールの踵を持って行かれないよう俯き加減で歩くのに その日は車道を見る余裕があった 多分ノロノロ歩きの所為 少し前方で止まっているタクシーの脇で何やら揉めているやり取りが耳に飛び込んで来た 「だから、ここまで持って来て貰います」 「そんなこと言われても稼ぎ時なのにロスになる」 「じゃあ振り込みでどうです?」 「は〜?」 「財布を落としてしまったんだ 現金もカードもない、携帯決済はやってない 残念なことに携帯は充電切れ じゃあ、このまま連れの所まで乗せて行ってくださいよ そこで払いますから」 「お客さん、そこにお連れが居るって保障はあるの?家はどこ? そこに行った方が早くない? ほんと困ります」 「家は、ないんだホテル住まいだから」 「は?話にならん」 話の内容から察するにタクシー代のようだ 初老の運転手さんは呆れた風で返しているけれど お客の方はパッと見ただけでも 仕立ての良いスーツを着て身なりはキチンとしている 信じて“振り込み”に応じてあげれば良いのに残念 ま、そのうち運転手さんが折れるでしょ そんなことを思っていたのに 駅まで続く人波は信号で止まっていて 不躾にも二人から視線が外せない そうするうちにも 不毛なやり取りは続いていて いつもなら・・・間違っても揉め事に首を突っ込むことはないのに 動き出した人波に乗らず 立ち止まったままの私は ガードレールの側まで数歩近づいていた
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