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父の勝手な言い分にも嫌な顔ひとつせず
紳士的に振る舞う彩人さんは
「お昼からの会食なので
夕方にはご自宅へお送りできますよ」
そのスタイルを崩さない
彩人さんの微笑みを見ているだけで
私の胸には“罪悪感”という名のどす黒い思いが広がっていた
・・・
金森さんの入れてくれたお茶を飲んで過ごした僅かな時間も
両親とは二言、三言交わしただけで
ずっと彩人さんに話しかけられていた
「それじゃあ、出かけましょうか」
全然乗り気じゃない食事会へ
両親と祖母は金森さんの車で、私は彩人さんと二人きりで出かけた
「ひよりはご両親とはあんな感じ?」
「あんな、感じです」
「そっか」
“あんな感じ”をどう捉えたか補足しなくても
見たままなのだから説明しようもなく
絶対楽しめそうもない
この後の食事会で父が失礼なことを言わないかどうかだけが不安要素だった
それが・・・
「はじめまして。原田です」
ホテルの一室に並べられた御膳と
コの字型に配置された席
両親の座る向かい側に
私も初めてお会いする
彩人さんのご両親が並んでいた
そこからは・・・
よく覚えていない
緊張し過ぎて
何を食べたのか・・・
何を話したのか・・・
ただ、ひとつ
「明日にでも入籍します」
彩人さんの声だけが強く耳に残った
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