張り巡らされた包囲網

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「可愛い」 そんな私に気付いてクスッと笑った彩人さんは少し身体を離した 手を伸ばしてカップを取ると口をつけた 「ゆっくりね?火傷するからね」 過保護というかどこまでも甘い彩人さんは 私がコーヒーを飲んでいる間中 頭を撫でては「可愛い」を繰り返す 向かい側からの視線が気になって恥ずかしい 少しでも彩人さんを離そうと 「彩人さんは?」と聞いてみたのに 「僕は帰ってから、ひよりに入れて貰うことにするね」 此処では飲まないことを遠回しに聞かされた ・・・失敗 ・・・でも、なんでだろう 考えるより先に 「お待たせしました」 案内してくれた男性が戻ってきて 入れ替わりに女性が頭を下げて出て行った ソファの向かい側に腰を下ろした男性は 手に持ったトレーを差し出してきて 「ご確認を」と口角を上げた トレーの上には二つのビロードの箱 一つは紅白、もう一つは真紅 彩人さんは迷わず真紅の箱を手に取ると私の目の前で開いた 「・・・っ」 可愛らしいピンク色の石が一粒ついた シンプルなリング その色に・・・ ただただ見惚れる 「婚約指輪は“永遠の愛”を意味する ピンクダイヤにしたかったんだ」 低い彩人さんの声がいつもより甘く聞こえる 左手の薬指に通されたそれは 一分の隙もなくピッタリと収まった 瞬きを忘れて見ている私に 「ひよりに永遠を誓うよ」 彩人さんは指輪ごと薬指に口付けた 「・・・」 「幸せになろうね」 間近で微笑む彩人さんの瞳に 泣きだしそうな私が映っていて 唇を開くと声を上げて泣きそうで 誤魔化すように何度も頷いた
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