第一章  負け犬。

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 四文字熟語で簡単に言うなら“眉目秀麗”な男だった。歳は意外に若そうだ。30歳ぐらい?いや、20代かもしれない。ただ、ひどく冷たい雰囲気なのだ。 「一応、簡単に説明してやる。お前は溺れて河口からさらに海に流されてきたようだ。よくもまぁ生きていたな?オレのクルーザーのスタッフが気付かなければ、お前はそのまま死んでいただろうが。運だけはあるんじゃないのか?クルーザーにはたまたま招いていた医者も居合わせたおかげでお前はここにいるのだから」  運が良い?冗談じゃない!死にそこなったのだ。生き地獄からようやく解放されると思っていたのに。 「で?お前は何かいう事があるだろう?」  男は鋭い視線でオレをにらんでいる。っていうか、そもそもこの男は何者なんだろう?この若さで“オレのクルーザー”とか言っているし、この部屋もおそらく自宅なんだろうけれど、そんじょそこらの分譲マンションとは違って見える。もしやとんでもない金持ちなんじゃないだろうか。
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