【 第三話: 四葉のクローバー 】

1/1
前へ
/7ページ
次へ

【 第三話: 四葉のクローバー 】

 ボクは、駿くんと同じ中学へ行き、高校も頑張って駿くんと同じ高校へ入った。  でも、駿くんとクラスが一緒になることは、結局、一度もなかった。  だから、一方的にボクが駿くんに憧れて、駿くんを追いかけていただけだったんだ。  大学も当然、駿くんと同じ国立の医学部を目指したが、ボクは、この2年合格することが出来ないでいた。  だから、神頼みをするのは、これで3回目……。 「若葉くん、医学部まだ目指すの?」 「う、うん……、実は、どうしようか今、悩んでる……」 「別に医学の道だけが大学じゃないよ」 「そ、そうだね……」  ボクは、実は、このタイムカプセルを開ける機会で、全てリセットするつもりもあった。  もう、医学部を断念しようと……。  駿くんの変わらない笑顔を見ていたら、ボクはいつの間にか、目に涙が溜まり、彼の姿が遠く(にじ)んでいくようだった……。  夜になり、駿くんが用意してくれた近くの居酒屋へ、昔の友達と一緒に飲みに行った。  宴会中も、男子は駿くんたちと相変わらず、仲良さそうにはしゃいでいた。  ボクは、そんな彼らがとても眩しく見えて、すごく(うらや)ましく思えた。  ――そして、宴会も終わり、みんなと別れ、ボクが一人家路につこうと歩いていた時、何故か彼が後ろからボクにこう声をかけてきたの。 「若葉! ちょっといいかな……」 「えっ? 駿くん……、何……?」 「あ~、今日さ、若葉が教室で見てた『四葉のクローバー』の押し花ってさ……、確かあの頃、珍しいからって、俺が見つけて若葉にあげたやつだよね……」 「あっ、うん、そうだよ……。駿くん、憶えてくれてたんだ……」  そう、小学校六年生の卒業式が近付いていた頃に、駿くんがボクにくれた『四葉のクローバー』……。  学校の裏山にあるクローバーの丘で、駿くんが一生懸命に探してくれて、ボクにくれたもの。  その時、駿くんが、四葉のクローバーって、『幸福』が訪れるんだよって言ってた……。  あの頃は気付かなかったけど、大人になった今なら、その『四葉のクローバー』の意味が分かる。  花言葉は、  『』……。  あの時のボクは、その本当の意味に気付かなかったんだ……。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加