猫の王様 ~EP.5 猫の王様とバレンタインの話~

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 最近、恋人ができた。  人間嫌いの俺が誰かを好きになる日が来るとは、今でも信じられないというか、何というか。  以前、とある腐女子に言われたように、まるでファンタジーだが、そんなことはない。  九条くんに初めて逢ったときのことは、よく覚えている。  あの日は晴れていたが、玄関を出たら雨の匂いがした。そこで自転車で行くのを諦め、傘を持っていくことにした。  家を出て少し経ったころ、大粒の雨が降ってきたので傘を差した。そのまま大通りに出たとき、少し先にある大学の敷地内から、小さな子猫が道路に飛び出していくのが見えた。車の交通量はあまりないが、一瞬、胸がひやりとした。  けれど子猫の向かった先に目をやったとき、自転車が走っているのに気づいて、今度こそ心臓が止まりそうになった。  と、急ブレーキをした自転車がハンドルを切り、思い切り植え込みに突っ込むのが見えた。子猫はびっくりしたように植え込み沿いに走り去り、大学の校門に飛び込むように姿を消した。  俺としては子猫のほうが心配だったので、本当はすぐにでもあとを追いたかったが、何故かそうしなかった。
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