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人間には興味ないし、どうなろうと関係ない。だが、あそこで植え込みに突っ込んでくれなかったら、子猫は死んでいただろう。つまり命の恩人には違いない。
とはいえ、自分から関わる気は毛頭なかった。俺はただそこに立ち止まり、土砂降りの中、向かいの歩道の植え込みの奥を眺めていた。
しばらくして人影が立ち上がるのが見えた。ずぶ濡れで泥だらけだが、取り敢えず大丈夫そうだ。俺はそのまま立ち去ろうとした。が、彼が歩道や植え込みを覗き込み、何か探す素振りをしていることに気づき、足を止めた。
何か見つけた様子はなかったのに、少しして彼は安堵したように息をついた。その時、俺は彼が子猫の心配をしていたのだと気づいた。
それから彼は植え込みの葉や折れた枝などを心持ち整え、ようやく自分の自転車が倒れているほうに戻っていった。彼が泥だらけの自転車を引っ張って植え込みから出てくるのに思ったより時間がかかったが、俺はまだそこにいた。どうしてかはわからない。だが、彼が雨に打たれながら、チェーンの外れた自転車を引きずって歩いているのを、俺は傘を差したまま離れたところから眺めていた。
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