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彼はずぶ濡れで、泥だらけで、自転車は壊れ、歩くときに少し足を引きずっていた。恐らくどこか痛めたのだろう。辛そうな酷い顔をしているのに、どこか淡々としていて、雨で濡れているけれど泣いてはいない。
気が付いたら、俺は彼のあとを追っていた。校門の辺りで追いつき、俺は彼に傘を差しかけた。特に何か考えていたわけじゃない。同情できるほど、彼のことを知っているわけでもない。だからこれは、ただの俺の気まぐれだ。
この大学は近所だし、以前は通っていたこともあるから、多少のことは知っている。体育館でシャワーを借りる許可を取ったり、微力ながら彼が俗世に戻る手伝いをさせてもらったあと、俺は大学内で子猫を探したが、結局その日は見つからなかった。
以来、俺は子猫を探して大学の構内を歩くようになった。数日が経ち、中庭の雑木林のことを思い出した俺は、そこで子猫を発見した。立ち入り禁止になっているし、猫のたまり場だし、天気のいい日は居心地もいい。たまに雑木林を突っ切っていく学生もいるが、近道のルートから外れた場所にわざわざ入ってくる物好きはいないし、道に迷ってかえって遠回りする要領の悪い奴も滅多にいない。
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