猫の王様 ~EP.5 猫の王様とバレンタインの話~

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 と、高をくくっていたら、いた。おまけに慌てていたのだろう、携帯まで落としていった。一目見て、すぐに彼だと気づいた。  翌日、彼の携帯に電話がかかってきたので出た。彼の大学で、昼休みに携帯の受け渡しをする約束をし、俺はいつものように猫に逢いに中庭の雑木林に向かった。  携帯を返したら、俺はそれで終わりだと思っていた。最初に彼と会ったのはかなり前のことだし、向こうも俺のことなど覚えていないだろう、と。もし覚えていたとしても、特に関わる必要性を感じない。彼もそう考えると思っていたら、違った。  どう見ても人好きするような態度はとっていないはずなのに、どうやら彼は俺に好意を抱いているようだった。友達がいないのかと思ったら、そうでもないらしい。俺のおかげだと言って、彼ははにかむように笑った。  それがいわゆる友情の部類に入る好意ではないことは、すぐに気づいた。彼自身がそうと気づいていないことも。
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