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【5】
シロは新しい神様が来る前に谷さんの家を離れることにした。
琴平さんには強がりを言ってしまったが、本当は辛かった。新しい神様と顔を合わせる勇気がなかった。
何か考え込んでいた谷さんが散歩に出たのを見計らって、シロは茶箪笥から下りた。
小さな居間を見回してきゅっと唇を結び、深く頭を下げる。
「今まで、ありがとうございました」
五歳のユミを連れて喪服の谷さんがこの部屋に帰ってきた日に、シロは御札に憑いた。それから十年余り、最初のうちこそ辛そうにしていたけれど、すぐに笑顔の絶えない家になった。二人きりでも元気で明るく、ユミは勉強も頑張っていた。
でも、ずっと貧乏だった。
「ごめんなさい」
それがシロのせいだとは知らなかったのだ。
「ごめん……」
涙がぽとりと古畳に落ちた。
「どうか、今度の神様はいい神様でありますように」
シロには叶えられなかった願いを叶えてもらってほしい。谷さんとユミがずっと幸せでありますようにと願って、小さな体ひとつでふわりと空に浮き上がった。
金丸家の屋根で琴平さんがシロを見ていた。
綺麗な顔には深い憂いが浮かんでいた。
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