0人が本棚に入れています
本棚に追加
就職氷河期の中ようやっと内定を貰って入社した会社は超が付く程のブラック企業だった。
わたしは毎日心の中で『仕事が出来ない口ばかりのお局様』に呪詛を唱えながらひいひい言いつつ仕事をこなす毎日。
わたしが社長だったなら社員に絶対深夜残業なんかさせないのに。
ぶつくさと会社への不満を吐露しながら、終電を惜しくも数駅前で逃してしまった夜道を歩いていたら、不意に前方方向右手側に鳥居を見付けた。
ふらり、誘われるように鳥居をくぐったのはどうしてか。
短い参道の果てには小さな賽銭箱が置かれた社が鎮座していた。うらぶれた神社のようだ。
何となく財布を取り出して、丁度入っていた五円玉を抜き出す。
財布をしまって五円玉を賽銭箱に放り込む。
カランカラン、と金属が木を叩く音が鳴り止むのを待ってから手を合わせる。
「神様どうかお願いしますウチの会社がホワイトになりますように……否、ならずとも願わくば使えないお局様が急病か何かで姿を消して、せめてもの心の平穏を保たせてください」
ぶつぶつと呪うように本心を吐き出したら、すっ、と社の戸が開いてぎょっとする。
なになになに? 心霊現象? ちょっとやめてよ、わたしそういうの苦手なんだから。
慌てて参道を引き返そうとしたのに、足が地面に縫い付けられたかのように動けない。
いよいよ怖くなって背筋に冷たい汗が伝い落ちた。
「久々の参拝客かと思えば、呪詛を唱えにきたとはな」
低い声に、え? と大きく瞬く。
目の前には狐の耳と尻尾が生えた人……人? が立っている。
「妖怪に堕ちた神へ願ったんだ。その願い、叶えてやろうじゃねぇか」
軋むような笑い声に、わたしは夢でも見ているのだろうかと目眩がした。
最初のコメントを投稿しよう!