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誰かから誰かへ
和美はスーパーのレジに並んでいた。
すると、会計をしてもらっていたおばあさんが、財布をのぞきながら「あら……どうしよう。」と言った。
レジの人が、「どうしました?」と尋ねると、おばあさんは、
「お金が足りないのよ、どれか減らさないと。ええっと……」
これは時間がかかるぞと、和美は覚悟した。
その時だった。
「なんだよ、いくら足んないの? ばあちゃん。」
和美の後ろに並んでいた、ジーンズに綿シャツ姿の20代くらいの兄ちゃんが、自分のカゴをその場に置いておばあさんのところへ来た。
「ええっと、15……7円かな?」
「なんだ、それっくらいなら、オレが出してやるよ。」
「え?」
おばあさんの表情からいって、身内ではなく、赤の他人らしい。
「えーっと、ああ、細けえのねえな。200円渡すわ。」
「いや、そんなわけには」
「いいから。また来るの、大変だろ。」
「でも……」
「あ、じゃあ、釣り銭は貰うわ。」
「でも……」
「そんなに気になるなら、貸しってことで、今度どこかで募金箱を見かけたら、その中に返しておいて。ね!」
兄ちゃんはなかば無理矢理おばあさんにお金を渡した。
おばあさんは兄ちゃんのノリに押されてお金を受け取った。
そして、何度も頭を下げながら、レジを終えた。
和美はあんなやり方もあるのかと、自分のレジをしてもらいながらおばあさんを見送った。
おばあさんはスーパーの出口で、もう一度兄ちゃんに頭を下げていた。
カートを押しながら歩いていく後ろ姿を見ながら、和美はふと、離れて暮らす祖母のことを思い出した。
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