訪れし救い

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訪れし救い

 年明けの初詣参拝もようやく落ち着き、平穏な日々を取り戻しつつある一月中旬、希望峠麓にある古びた神社に悩みを抱える神様の姿があった。  年末年始、神に縋るように神社へ訪れた者達へ平等に耳を傾けていた神も、時代の流れにより参拝者の願いを自ら対応出来ず、遂に、神様の神である大神様へ救いを求め翌日、恐れ多くも神様の元へ待ちわびた(ふみ)が届く。 『ー 神通達 ー 希望峠に仕える神よ。 赤雲に乗りし使者を遣わせた』  そして迎えた二日後、希望峠神様の耳元へ騒がしい地響きのような排気音が響いた。 「ド・ド・ド・ド……」  神様の視線の先には真っ赤に輝くバイクが止まり、一人の男は鳥居の前で一礼すること無く参道へと進む。  サングラス姿に白髪混じりの長髪を後ろで束ね、肩で風を切る様に堂々と正中(せいちゅう)を歩む姿はただものではない雰囲気を醸し出す。  正中とは参道の中央を意味し神の通る道である故に、通常の参拝客は皆、避ける様に左右に分かれ参道の端を歩んでいた。   『あの赤い乗り物は赤雲? 凛とした顔つきで正中を歩みよるっ。もしや、人間に姿を変えし大神様の使者であろうか――』    男は神様の手と繋がる鈴を鳴らし、手にした五円玉を賽銭箱へと投げ入れるとじっと神殿を見つめ続けるが不思議な事に何一つ願いを告げる事無く立ち尽くす。  そもそも神社とは願いをする場ではなく、自らの決意による目標を誓い、成し遂げた感謝を神にお伝えする場であるにも拘らず、多くの参拝者は願い事を伝える場として利用していた。  そんな中、欲が無いのか男はじっと神殿を見つめている。 『― 無の心 ― 間違いない!  彼こそは、大神様の仕えし使者、丁重に迎え入れねば――』 「ガガガガガ――ッ――」  神様がそう判断し開かれた扉から神殿へと招き入れたその男は、大神様の使者とは全く無縁の偶然バイクツーリング途中に参拝に寄っただけの、ただの中年オヤジ、その名もたぁちゃんだった。
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