14『図書分室・3』

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14『図書分室・3』

やくも・14『図書分室・3』     小桜さんのスマホには卒業文集の目次が映っていた。  下の方に―― 第二十一期卒業生 ――と書いてある。 「21期、いつだろ……ずいぶん昔のなんだろうね」 「そうだね」  インクのにおいが鼻についてきたんで、引き出しをしまって蓋をした。  もう一度『謄写版』という名称を記憶に留めて分室を出る。  それじゃね。  小桜さんとは方角が違うので、校門を出たところで別れた。  歩きながら生徒手帳を出して、覚えた字をメモる。  月へンに栄誉の誉で『謄写版』……よし、覚えた。  二十一期生……生徒手帳には……あった。わたしたちは七十一期生だから、五十年前だ!  不思議だよ……小桜さんには二十一期生の卒業文集の目次に見えていたんだ。  わたしには、こないだ小桜さんが四連休した時の裏事情、それも杉村君と秘密めいたことを話した会話の記録に見えた。  小桜さんが休んだ理由。  杉野  : どうせ休むんだったら図書当番の日にして。  小桜さん: なんで?  杉野  : えと……転入生の小泉さんと話してみたいから。  小桜さん: あからさま~!  杉野  : 嫌か?  小桜さん: え、あ……うん、いいよ。うまくやんなさいね(^^♪  おかしいなあ……わたしの妄想?  ハ!……んちは!  思い切り至近距離! ペコリお化けのペコリで我に返って「んちは!」と挨拶までしてしまった。  コンチハ  はっきりとした返事が返ってくる。慌てて家路を急ぐ。  わたしってば、考えすぎてつづら折りではなくて崖道を通って帰って来たんだ。 「お爺ちゃん、この字なんて読むの?」  風呂上がりのお爺ちゃんに、忘れていたバスタオルを渡しながら聞いた。  生徒手帳に一度書いたので『謄写版』の字を覚えてしまった。 「ああ、トウシャバンと読むんだ。普通にはガリ版と言ってね、学校の印刷は、これでやったもんだ」 「そうなんだ」 「やくもの学校にあったのかい?」 「うん!」  謎が解けたことと、お爺ちゃんに挨拶以上の会話ができた興奮で元気のいい返事になった。  興味を持ったお爺ちゃんに説明する。興が乗ったお爺ちゃんは冷蔵庫から缶ビールとコーラを出して、むろんコーラの方をわたしにくれて、話が続く。 「へえ、図書分室にねえ……でも、五十年前のインクで刷れたとはとはなあ……まあ、保存がよかったんだろう」  お爺ちゃんは感心した。むろん、杉村君と小桜さんの会話が刷られたことは言わない。 「ごめん、まだ五十冊ほど残ってたの」  あくる日、霊田先生に頼まれ、今度は一人で台車を押していく。  そして、そっと謄写版を確認、一枚刷ってみる。  あれえ?  そこには……小桜さんが見たのと同じ卒業文集の目次しか刷られてはいなかった。  
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