157『食後のおミカン』

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157『食後のおミカン』

やくもあやかし物語 157『食後のおミカン』   夕食の後は、たいてい果物が出てくる。  リンゴだったりブドウだったり梨だったり。  出すのはお婆ちゃん。  お母さんと暮らしていたころは、毎食後に果物が出てくることは無かった。  忙しいのと邪魔くさがりと、あまり果物が好きじゃなかったから。 「うん? 好きだよ果物。でも、生で食べるよりは、手間暇かけてお酒にした方は好きかなあ」  なんて、横着を言っていた。 「それじゃ、栄養が偏っちゃうわよ」  娘の横着を知ったお婆ちゃんは、それから毎夕食後に果物を欠かさなくなった。  親が、そんなだから、わたしも、毎夕食後、どうかすると毎食後果物が出てくるのには閉口した時期もあったんだけどね。習慣とは恐ろしいもので果物を口に入れなきゃ夕飯が済んだ気がしなくなってきた。  でもね、近ごろ、ときどき忘れることがある。  果物は、最初から食卓に並んでいるんじゃなくて、頃合いを見て、お婆ちゃんが台所に行って準備をするんだ。  皮を剥いたり器の盛ったりね。  それが、話が盛り上がったり、面白いテレビがあったりすると忘れてしまう。  お母さんは、もともと果物好きじゃないし、お爺ちゃんはどっちでもいい人だし。果物が出なくっても文句も言わないし注意もしない。お母さんなんかは――しめしめ――と思っている。  わたしも「果物ないの?」とかは言わない。夕飯が済んだ気がしないんだけど、お母さんに楯突くみたいでね……夕飯の席にお母さんが居ない時に忘れたことは無い。今んとこ。  たぶんね、お母さんが家に居たころは食後に果物を出すという習慣は無かったからなんだと思う。  そんな、お母さんが夕食に間に合わなかった時のこと、蓬莱山から戻ってきていくらもたたない日。  お婆ちゃんは果物を忘れてしまった。  テレビでお笑い系のグルメ番組をやっていて、美味しそうなのとおもしろいので、アハハと笑っているうちに忘れてしまったんだと思う。  ピンポーン  ドアホンが鳴って、お隣さんが回覧板を持ってきてくださった。 「あ、わたし出る」 「そう、じゃお願い」  無駄に広い家なんで、こういうことはかって出る。   回覧板を受け取ってダイニングに戻ると、お婆ちゃんはキッチン、お爺ちゃんは読みかけの夕刊置いたまま、たぶんおトイレ。  で、テーブルの真ん中にはおミカンを盛ったザルが置いてある。 ―― ああ、思い出したんだ ――  見たからには仕方がない。大人しく座って、おミカンをいただく。  あら、美味しい!  シーズンには間があるので、たぶん酸っぱいと覚悟していたから、ビックリした。  お正月とかに出てくるような、甘くてジューシーなミカンだった。 「夕べのおミカン、美味しかった!」  朝食のテーブルで、お婆ちゃんの偉業を褒めたたえる。 「え?」 「お婆ちゃんがデザートに出してくれた」 「あ、夕べは忘れてた!」 「え?」  こういう行き違いは、深く追求しない方がいい。家庭の平和のためにも、あやかしとかに付け入られないためにも。  その日、学校から帰ると、お婆ちゃんの古い友だちからおミカンの頂き物。  夕食後に頂くと、とても美味しかった。  でも、夕べ食べたミカンほどではなかったよ。 「やくもは予知能力があるのかもね」  お婆ちゃんが言って、お爺ちゃんが笑って、遅く帰ってきたお母さんは酔っぱらっててそれどころじゃなかった。  そして、みかんの話は、これでは終わらなかったんだよ。 ☆ 主な登場人物 やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生 お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子 お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介 お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 教頭先生 小出先生      図書部の先生 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き 小桜さん       図書委員仲間 あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)  
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