158『自分の部屋にもミカン』

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158『自分の部屋にもミカン』

やくもあやかし物語 158『自分の部屋にもミカン』   あれぇ?  部屋に戻ると、机の上にミカンが載っている。  学校のある日だったら、瞬間――あれ?――と思っても、すぐ意識の外にやって学校に行く。  いちいち気にしたり考えていたら学校に遅刻しちゃうからね。  でも、今日は休日だから、椅子に座って腕組みをする。  腕組みをして、机の横棒に脚を乗せ、椅子の後ろ脚に重心を掛けてギーコギーコさせながら考える。  夕べのと足して、二回目の不審ミカン。怪しいミカン。  フィギュアたちは、みんな神保城。残った交換手さんも、あっちの逓信大臣を兼ねているので、今は黒電話もただの黒電話。  だから、自分で考えるしかない。  このミカンは、あやかし系?  いや、食卓のミカンもそうだったけど、普通のミカンだった。  おいしかったけどね。  これも、見かけは普通のミカン。  ギーコギーコ ギーコギーコ ギーコギーコ  椅子を漕ぐなんて、しばらくぶり。  これは、お父さんのクセだった。  机に向かって考え事をするとき、考えがまとまらなかったりすると、やっていた。  子ども心にもかっこいいと思って真似をした。  学校でやったら「男みたい」とからかわれた。  からかわれたけど平気だった。あのころ、お父さんは、ちゃんとお父さんだったからね。  平気だと、みんな言わなくなるし、わたしも自然にやらなくなった。  いっしゅん、小学生の頃のことを思い出し、それでもギーコギーコ……ギーコギーコ……  ころん  突然、ミカンが転がって、慌ててミカンを掴まえる。 「ヤバイところだった……(^_^;)」  ちょっと下卑た言い方で安心してみる。  たとえミカンでも、床に落ちてはかわいそうだ。  ミカンとか果物は、衝撃を受けたところから腐っていくからね。食卓で食べたところだから、今は食べるつもりも無いしね。ミカンは完熟しているようで、たった一個なのに、柑橘系の香りが部屋に満ちている。  ギーコギーコ ギーコギーコ ギーコギーコ  あれ?  椅子を漕ぐのを止めたのに揺れている。  その理不尽に部屋を見渡した。 ―― え、自分の部屋じゃない!? ――  四方ぜんぶ木の壁、座っているところだけ二畳分の畳が布かれ、畳は床に打ち付けられた木の枠で固定されている。  カンテラみたいなのが二つ揺れていて、その灯りだけが湿気った空気に滲んでいる。  ミカンの香りも濃厚になってきて、目の前の木の壁だと思ったのは積まれた木箱の山で、木箱の中身は全部ミカンだと分かる。  ギギギギ ギギギギ ギーー ギギギギ ギーー  部屋とミカン箱が同時に軋んで、思いついた。  これは、ひょっとしてミカンを積んだ船の中に居るんじゃないの!?  ガチャン!  積み荷の向こうで音がしたかと思うと、とたんに、霧吹きをかけられたみたいにミストというか水しぶき!  ドップーーン ジャッパーーン  船を打つ波音も聞こえる。  ガチャン!  扉が閉まる音がして、積み荷の向こうからびしょ濡れの女の子が現れた!     ☆ 主な登場人物 やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生 お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子 お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介 お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 教頭先生 小出先生      図書部の先生 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き 小桜さん       図書委員仲間 あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)  
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