02『お屋敷の中へ……』

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02『お屋敷の中へ……』

やくも・02『お屋敷の中へ……』     お風呂掃除をかってでた。  お爺ちゃんもお婆ちゃんも、お母さんだって「なにもしなくていいよ」と言ってくれた。  でも、こんなに立派な家に住まわせてもらって、何もしなくていいというのはかえって気づまりだ。  それで、頭をグルンとめぐらせて「お風呂掃除をやらせて」と頼んだんだ。  お風呂掃除なら学校が終わった夕方で間に合う。庭とか家の周りの掃除も考えたんだけど、近所の人と顔を合わせたくなかったし、外回りの掃除は雨が降ったら大変だ。お風呂ならお天気に左右されないし、毎日同じダンドリでやればいいんだし。  でも、お爺ちゃんが晩ご飯の前に風呂に入る習慣だということには思い至らなかった。  遅くとも五時には帰って風呂掃除しなくちゃならない。    図書委員の仕事が遅くなって、焦っていた。  普通に帰ったら五時を回ってしまう。  だから、あのお屋敷の崖下で脚が停まった。  あのお屋敷は、もうだれも住んでいない。生け垣の隙間から見えた一階も雨戸が閉められている。  四日前からは工務店の工事に関する看板みたいなのが掛けられ、昨日は取り壊しのための足場が運び込まれ、今朝は工事機材を運び込むために門扉が外されていた。  ここを抜けたら百メートルの近道だ。  そう思ったけど、裏の出入り口が閉まっていたら元も子もない。  その裏口も開いている!  わたしは、ドキドキしながら階段を駆け上がった。  裏木戸を潜ると猛々しく草が茂った庭。モワっと湿っぽい土の匂い、ちょびっとかび臭い。たぶん、取り壊すにあたって中の荷物を出したりしたんだろう。  土蔵の脇を周って広い庭。  お母さんとチラ見したお厨子が静もっている。  ソーラーかなにかでオートなんだろう、お厨子の中のお燈明が点いている。 ――すみません、通らせてもらいます――  ペコリと頭を下げて通り抜けようとしたら、お厨子の下に光るもの……え、スマホだ。    こちらに来るのあたってスマホを買ってもらった。 「好きなの選びな」  お母さんは言ってくれたけど、離婚したてで大変なのわかってるから、指さしたのはキッズスマホ。 「これでいいの?」 「うん、いろいろ付いてても使いこなせないから」  ほんとはカタログの表紙を飾っていた最新型。見ないようにするのに苦労した。見れば、お母さんが気を遣う。  その表紙を飾っていたのと同じスマホが落ちている!  わたしは、視界の中心を外してモノを見るのが得意。  スマホ屋さんで、憧れのスマホはしっかり目に焼き付けてある。  家の人か工事関係の人が落としたんだろう……思わず手に取ってみた。  手に取ると、それまで暗かった画面がパッと明るくなった。  静電気かジャイロのセンサーが付いているんだろう。ま、このくらいでは驚かない。 ――いらっしゃい――  声がすると同時に、画面にも「いらっしゃい」が現れる。  やばい、どこか触っちゃったかな。  うろたえると、文字が消えて鳥居が現れてズンズン大きくなっていき、いつの間にか画面からはみ出した。  目の前に鳥居が現れた。  首を巡らせると、鳥居を囲んでボンヤリと長方形の枠が滲んでいる。  これって……わたし、スマホの画面の中にいるの!?
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