20『ミチビキ鉛筆』

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20『ミチビキ鉛筆』

やくも・20『ミチビキ鉛筆』     夢だと分かってる。  だって、焦ってるもん。  お医者さんに注射をされた。  風邪の注射だから眠くなるんだ。  でも、自然な眠りじゃないから、少しだけ意識がある。  その意識が、これは夢だと言っている。  明日は試験があるんだ。転校して最初のテストだから欠点はとりたくない。  注射のお蔭でだいぶ楽になった。だから、起きて少しでもノートとか見ておきたい。  ノートは真面目にとってる。だから、ざっと見て、大事なとこを書くだけで平均点ぐらいはとれるんだ。  だから目覚めなきゃ……目を……覚まさなきゃ……目を…………  しまった!  NHKの朝八時のニュースが聞こえる。お爺ちゃんがダイニングで朝ごはん食べながら聞いてるんだ。それが、わたしの部屋まで聞こえてくる。いつもだったら玄関を出る時間だ。風邪ひきなもんだから、休ませようと思って、だれも声を掛けないんだ。  一分で制服に着替えると階段を掛け下りる。 「だいじょうぶ、やくも?」 「あ、お母さん!?」 「休んでなさい、学校には電話しといてあげるから」 「だめ! 今日は試験だから休めない!」 「でも、やくも……」  というわけで、ミチビキ鉛筆を前に置いて一時間目の試験が始まろうとしている。  十秒で説明すると、お母さんがくれたミチビキ鉛筆。  お尻のところの塗装を削って1~5の数字が書いてある。答えに詰まったら転がして出た数字が正解なんだそうだ。  急いでいたから、そのまま胸ポケットに入れてきた。  チャイムが鳴る前に練習問題で試してみた。五問やって全部正解が出た!  これ、いけるじゃん!  思ったけど、ポーカーフェイスで答案が配られるのを待っている。  前の子が緊張した顔で問題用紙を送ってきた。一瞬目が合って――がんばろうね!――エールの交換やる余裕さえあった。  なんたってミチビキ鉛筆が、わたしにはある!  チャイムが鳴って「始め!」と先生の号令。  問題用紙と解答用紙をひっくり返して、まずは名前を書く。  第一問……ゲ!?  選択肢がA~Gの七つもある! 目を下にやると、八つ。その下は九つ、その次は十個!?  これではミチビキ鉛筆が役に立たない! タラ~っと汗が流れる。  だんだん答案用紙がボヤケテきて焦る。  こうなっては、勘を頼りに書くっきゃない!  破れかぶれの決心したところで……目が覚めた。  あれもこれも夢だったんだけど、今日からテストであることは現実だった。  
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