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25『お爺ちゃんの探し物』
やくもあやかし物語・25
『お爺ちゃんの探し物』
廊下でゴソゴソ音がしていたかと思うと、今度はリビングの方でゴソゴソ、ときどき「あれ?」とか「へんだなあ」とか呟く声はお爺ちゃんだ。
放っておいてもいいんだけども、もう十分以上もやっている。
やがて、ガサゴソはわたしの部屋の前までやってきて、もう気になるったらありゃしない(^_^;)
「なにか探してるの?」
ドアを小さく開けて顔だけ廊下に覗かせて聞いてみる。
「ああ、ごめん。勉強の邪魔だったね」
「ううん、宿題は終わったから」
本当はやりかけたばかりなんだけど、責めるような言い方になるのいやだからね。
「手伝おうか?」
「ああ、すまんなあ」
ぴょこんと廊下に出てお爺ちゃんと並ぶ。
「で、何を探してるの?」
「古い電話をね、まだ残してあったと思ってね」
「古電話ね、分かった!」
お爺ちゃんと並んで、いっしょに探す。
女というのは身近なものの変化に敏感なんだ。
離婚する前、お父さんが冷蔵庫の中身を探しあぐねて「~どこにあるんだあ?」と、冷蔵庫を開けっぱなしで探して呟く。
「開けっ放しにしないでよ」
「だって見当たらないよ」
「どこ探してんのよ、ここにあるでしょ!」
目的のものを取り出して突き付けるお母さん。
探し物は、からしのチューブだったりいかの塩辛だったり素麺だったりマーガリンだったり、いろいろなんだけど、子どものわたしが見ても――なんで見つけられないのかなあ――と思うくらいにドンクサイお父さんだった。
「女は身近なものには強いからなあ……」
お父さんの負け惜しみかと思っていたんだけど、男女では空間認識の能力が違うというのを公民の授業で習った。
授業なんて、大人しくノートをとるだけでほとんど聞いていないんだけど、この話題だけは先生の顔を見ながら頷いてしまった。
「人類が狩猟採集の生活をしていたころはな、男が狩に出て、女は竪穴住居とかで家事をやったり子どもの世話とかしてたんだ」
いまだったら男女で仕事を分けるなんて差別だけど、原始時代とかならそうなんだろう。
「狩りをしている男たちは広い空間認識能力を持ってた。狩って集団でやるだろ、おまえはあっちから、おれたちはこっちからとか場所を決めるだろ、ちゃんとその場所に着けなきゃ狩できないからな。だから、男は地図なんか書かせると女よりも上手い。逆に女はテキパキと家事をこなさなきゃならなかったから、身の回りに何があるかという認識能力に優れていた。他にも子どもの顔色や息の仕方とか微妙なところにも敏感でな、病気なんかには早く気づいて手当てするとかな」
そーか、だから女は男の嘘とか不注意とかを直ぐに見抜くんだ。
そんなことを習ったからかもしれない。
わたしはお爺ちゃんの探し物を二分ほどで見つけてしまった。
それはクローゼット手前の紙袋や古新聞とか宅配の段ボールの殻とかのところでひっそりとしていた。
――すみません、役立たずなもので……――
無言で詫びているような感じのするそれは、現物として見るのは初めての黒電話だった。
何に使うのかは分かるんだけど、使い方が分からない。
分からないというのは面白い。
手にするとうそみたいに重たい黒電話をしげしげと見るわたしだった。
☆ 主な登場人物
やくも 一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん やくもとは血の繋がりは無い
お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
小桜さん 図書委員仲間 杉野君の気持ちを知っている
霊田先生 図書部長の先生
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