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26『黒電話』
やくもあやかし物語・26
『黒電話』
あっらあ( ゚Д゚)…………まだあったんですか!?
アラブの神さまをあがめるような声をあげて、お婆ちゃんが驚いた。
黒電話というのは昔の電話機。どれくらい昔かというと、お婆ちゃんが娘時代に現役だったものらしい。
いまの電話と違って子機なんか付いていなくて、家族にかかってきた電話だと「少々お待ちください……○○ちゃん電話~!」とか呼んだらしい。電話は茶の間にあって、会話は家族に筒抜けだった。
「いやあ、高校生の時は男の人からの電話は取り次いでもらえなくて……」
お婆ちゃんはシミジミと黒電話にスリスリ。電話を取り次いでもらえないって……かなりの発展家だったのか。
「えと、この電話使ってたの?」
「そうよ、文字通りの黒電話だから、花柄の電話カバーとか付けてね可愛くしてたのよ」
電話にカバー? なんだかペットの犬か猫が衣装を着せられてるみたいだ。
て……待って!?
「ここ、お婆ちゃんの家だったの!?」
「え、そうよ。言わなかったっけ?」
「うん、初めて聞くよ!」
てっきりお婆ちゃんが嫁入りにきたのだと思ってた。
「うん、嫁入りよ。でも、住むとこなかったからね」
「ハハハ、二三年のつもりだったんだけどな」
そっか、お爺ちゃんはマスオさんだったんだ。
でも、分かるよ。家賃タダで、こんな広い家住んでたら引っ越せないよね。
「やっちゃん(お婆ちゃんは、わたしをこう呼ぶのだ)掛け方分かる?」
「そうだ、いちどやってごらんよ」
祖父母そろって孫をオモチャにしようという魂胆だ、目つきで分かる。
「で、出来るわよ」
口をとがらせて受話器を持つ。
「どこに掛けたらいい?」
「どこでもいいけど……」
「繋がってないから、110番とかどうだ?」
「やだよ、家にする」
で、番号を押す……手ごたえがない、てか、押しにくいんですけど(^_^;)。
ちょっと、なんでジジババ揃って笑ってんのよ!
「ダイヤルを回すのよ」
「あ、ああ💓」
指に掛かる圧がハンパない。ひどく重々しい。それに、爪の所まで回して戻って来るダイヤルの音に感動!
ジーーコロコロ ジーコロコロコロ
このアナログ感は新鮮だ! なんというか、電話一つ掛けることが、とてもドラマチックだ!
デイスプレーも無く、一斉送信はおろか電話番号の登録さえできない。この無能力さはガチ感動!
「しかし、今の子は、本当に知らないのねえ」
お婆ちゃんは、わたしの無知に感動。
「やくも、ひょっとして公衆電話とか使ったことないか?」
「う、うん(n*´ω`*n)」
なんで恥ずかしがるんだ、わたし。
「これは、教えておいた方がいいなあ」
「いいじゃないですか、こんなアナログ」
「違うよ、公衆電話。いつだったか、監禁されてた女の子が逃げ出して公衆電話から連絡しようとして苦労したってニュースでやってたぞ」
「あー、ありましたね。やっちゃん、テレホンカードとかも知らないでしょ!?」
なんか、お婆ちゃん喜んでる。
「そうだ、万一の時のために実地教育しておくか!」
お爺ちゃんが閃いてしまった。日を改めて公衆電話の使い方講習をやることになった。
「あー、えと……やるの?」
「「やろうよ!」」
「えーーーーーえと、この黒電話は?」
「あー、写真に撮ってSNSで流すんだ。ゆうべ黒電話で盛り上がったってな」
「あ、えと、そのあとは?」
「え? とくには……」
「じゃ、わたしの部屋に置いてもいい? だったら講習やってもいい」
「ああ、いいよ。オブジェとしても面白いからな」
なんか変なことになってきた……。
☆ 主な登場人物
やくも 一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん やくもとは血の繋がりは無い
お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
小桜さん 図書委員仲間 杉野君の気持ちを知っている
霊田先生 図書部長の先生
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