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28『黒電話の怪異・1』
やくもあやかし物語・28
『黒電話の怪異・1』
こうして私の部屋に黒電話が来た。
むろん電話線に繋がっているわけじゃないので、単なるオブジェというかディスプレー。
机の右っかわにデンと置いた。
わたしの机は校長先生が使うみたいに大きな木の机。
離婚したお母さんにくっついてくるまでは空き部屋だったそうだ。
八畳くらいの部屋は物置同然で、机はベッドと共に最初から置いてあった。新しいの買ってあげようかと言われたけど、なんだか小説の中に出てきそうな趣があって「この部屋がいい!」と宣言して決まった。
さすがにベッドのマットレスは新品にしてもらい、机の上はお習字の下敷きみたいな大きめの緑のフェルトを敷いた上に板ガラスを置いてもらった。お爺ちゃんの発案なんだけど、掃除が楽だし、下敷きを敷かなくてもプリントとか書類とかが書きやすい。
他にも、もともと部屋にあったものをそのまま使っている。
二段になった木の引き出し。引き出しにはA4が入る蓋ナシの木箱が収まっていて、上が既決、下が未決と書かれている。書類やプリントを入れておいて、学校とかでもらって来たばかりのを未決に、記入とか処理の済んだのを既決に入れておくことにした。
そこに黒電話だ、ますますレトロな雰囲気になってきた。
ときどき受話器を持ってダイアルを回してみる。受話器もダイアルも重々しいのだ。エボナイトとかいう樹脂で出来ているらしくて、並みのプラスチックの倍は重い。長電話すると腕がくたびれたとお婆ちゃんが懐かしがってた。ダイアルもゼンマイを巻いてるんじゃないかってくらいの抵抗感が心地いい。
なんだかくすんでいるのでウェットティッシュで拭いてみた。くすみは全然取れない。
ティッシュにも汚れが付かないので、最初からつや消しというかセミフラットな仕様なのだと納得。納得すると増々カッコよく見える。
お婆ちゃんがヌクヌクの中華まんじゅうを持ってきてくれたので、かぶりつきながら黒電話のある机の上を眺める。
お腹がくちくなってくると健康な女子中学生としては眠くなってくる。机のガラスがヒンヤリと心地よく首を横倒しにしてヒンヤリを楽しむ。
プルルル プルルル プルルル
繋がっていないはずの黒電話が鳴っている。
ちょっとホラーなんだけど、不思議と怖さは感じなくて受話器を上げた……
――皆さんこれが最後です。さようなら、さようなら――
受話器の向こうで女の人が囁くような、でも切羽詰まった声で言って切れてしまった。
え? え?
そこで意識が途切れた。
わたしってば中華まんじゅう食べて寝てしまったんだ。ガラスの上に涎の跡が付いている。
どうやら、夢の中で電話が鳴ったよう……黒電話に目をやると、受話器にベッチョリと指の形が付いている。
ひどく寝ぼけてしまったんだ……。
そのときは、そう思った……。
☆ 主な登場人物
やくも 一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん やくもとは血の繋がりは無い
お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
小桜さん 図書委員仲間 杉野君の気持ちを知っている
霊田先生 図書部長の先生
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