34『突然の選択肢』 

1/1
前へ
/161ページ
次へ

34『突然の選択肢』 

やくもあやかし物語・34 『突然の選択肢』       あとはデザートというところで電話がかかってきた。  お母さんは「ごめん」と言いながらスマホを持って店の外へ……「あ、島田君……」という一言で職場からの電話だと分かって、気持ちを引き締める。 「わるい、会社に戻らなきゃならなくなっちゃった」 「お仕事じゃ仕方ないよ。だいじょうぶだから行って(^▽^)」  気持ちを引き締めていたので笑顔で言えた。  お母さんは席にもどることなく、レジでお勘定済ませて行ってしまった。 「デザート、テイクアウトできますか?」  マスターに聞くと、快くケーキ用の白い箱に入れて持たせてくれた。 「ごちそうさまでした、今度またゆっくり来ますね(o^―^o)ニコ」  もう一回とびきりの笑顔をマスターに見せて外に出る。笑顔は、お母さんに見せてあげようと、そのつもりになっていたんだ。  次はデザートというときには、心の中で準備していた笑顔。  だれかに向けなきゃもったいない……うそうそ、笑顔にしてなきゃ涙が出てきそうだったから。  血のつながりの無いのは心細い。  あ、ダメだダメだ……これ考え出すと底なし沼になる。  楽しいことを考えよう……と思っても、おいそれとは出てこない。  えと……えと……  すると、横の路地から黒猫が飛び出してきた。立ち止まると、白猫が飛び出してきた。次に茶猫。  三匹混ざったら三毛猫……前にもこういうシュチエーションあったなあ……そう思っていると、ほんとうに白黒茶の三毛猫が出てきた。  すると、三毛猫が一歩前に出ると四匹揃って、ヒョイと立ち上がった。 「おう、やくも。ここでクイズだ」  三毛が言う。 「白・黒・茶は、これからのお前の運命だ。どれか一つ選びな」 「あ……えと……急に言われても」 「優柔不断なやつだなあ、さっさと決めろ。せっかく出てきてやったんだからよ」 「「「そーだそーだ」」」 「なによ、いきなり出てきて」 「いきなりじゃねーよ、前もつづら折りのとこで出てきてやったじゃねーか。あんときゃ、まだ、おまえは猫の言葉が分からなかったからよ。でも、いまは分かるんだ、さっさと選んじまいな」 「「「選べ!」」」  立っても、わたしの膝小僧くらいの背丈なんだけど、四匹揃って迫ってくると後ずさりしてしまう。  ピシ イテ! ピシ イテ! ピシ イテ! ピシ イテ!  四回音がしたかと思うと、猫たちの頭がポコポコポコポコと音がした。 「そこまでにしときな。次は手加減しないで食らわすよ」  歩道の向こうにツインテールのメイドさんがパチンコを構え、左右非対称の笑顔で立っている。 「やばい、ずらかるぞ!」  三毛の一言で、猫たちは四方に散ってしまった。 「突然の選択肢には要注意」  バシュッ!  パチンコ玉がすぐ横に飛んできて思わず目をつぶる。  再び目を開けた時には、わたしは家の前に立っていた……。 ☆ 主な登場人物 やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生 お母さん      やくもとは血の繋がりは無い お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介 お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き 小桜さん      図書委員仲間 杉野君の気持ちを知っている 霊田先生      図書部長の先生  
/161ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加