38『ぼっちの図書室』

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38『ぼっちの図書室』

やくもあやかし物語・38 『ぼっちの図書室』       広い図書室に一人ぼっちということがある。  しょっちゅうあることじゃないんだけど、相棒の当番の子がまだ来ていなくて、図書室を利用する生徒も来ていない時ね。  図書の小出先生は居ないことの方が多いしね。  一人ぼっちの図書室は神秘的だ。  数千冊の本たちが寝息を立てているみたいな気がする。  カウンターからは見えない書架の陰に何かの気配を感じることもある。  図書室にはカーブミラーみたいなのが幾つか付いていて、カウンターからは死角ができないようになっている。  本を盗んだり、ページを破ったり、飲食したり、そういうのを取り締まるために付けたらしいんだけど、それって生徒に対する剥き出しの不信感だよね。そういうこともあって、カーブミラーは埃をかぶってくすんだままにされている。天井の照明の陰になることもあって、人が居てもよく分からない。  わたしは、ときどき不思議な目に遭うので、期待半分怖さ半分でチラ見する。  プルプルプル  ビックリした!  カーブミラーには何も映らなくて、背後の司書室の電話が鳴ったのだ!  日ごろはささやかな音なんだけど、意表を突かれたので、スッゴク大きな音に感じた。  司書室の電話は先生用だから、生徒が出る必要なんてないんだけど、小出先生とかに急用だったら困るので、いらっしゃいませんを言うために受話器を取る。 「はい、図書室です……」 ―― やくもちゃんね? ――  ふたたびビックリ! 「あの……」 ―― 小泉電信局の交換手です ――  あ、あの黒電話に住み着いている身長一センチの! ―― 燃えないゴミを出しましたよね ――  出した。お母さんが前の家から持ち帰ってきたガラクタを今朝指定の袋に入れて出したところだ。 「それがなにか?」  不思議さも忘れて答えてしまう。 ―― あの中にアノマノカリスのぬいぐるみがあります ―― 「アノマロカリス?」 ―― ほら、牙を出したイカみたいなやつです ――   「あ、ああ」  思い出した、大昔、お父さんがクレーンゲームで取ってくれたやつ。気持ちが悪いんで整理を口実に物置に放り込んだんだ。 「あれならゴミでいいんだよ」 ―― そうおっしゃらずに、一度見てください。一時間もしたら回収車が来ますから ――  でも、いらないし……言おうと思ったら、頭の中でフラッシュするものがあった。  失ったら取り返しがつかない……気持ちだけが爆発した。なんなのか分からないけど、アノマロカリスがとても大事なもののように思えてきた。  電話を切ると、やってきた相棒の小桜さんに頼んで家路を急いだ……。   ☆ 主な登場人物 やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生 お母さん      やくもとは血の繋がりは無い お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介 お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 小出先生      図書部の先生 杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き 小桜さん      図書委員仲間
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