和夫と広志の運動会

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 『癖』──それは恐ろしいものだ。年月を重ねれば重ねるだけ直らなくなる。気付いた時には、手遅れ。時既に遅し。最初が大事だなんてよく言ったものだ。  多くの人はそれに悲観して、自分の短所として認め、隠そうと努力をする。  しかしそれは、実は他人から見れば真似出来ないことだったりもする。それは、長い年月を経て磨き上げた、至高の武器となる時もある。 ──全ては私の計画通り。  晶子は仁王立ちで親子リレーを眺めていた。  どのペアも、やはり肩を組むことに苦戦している。親が子に合わせ、前屈みになる。その姿は、正にへっぴり腰。  そして無理に歩幅を狭めている。気持ちが先走り、顔を前に突き出して、ヘラヘラ笑いながら走っている。  その中を、スーッと駆け抜ける親子。  そこにはお揃いの靴で、淡々と粛々とゴールに向かう姿があった。 「すごいね! あのお父さん、よくあの格好で、あんなに走れるね」 「あれは相当な努力が必要だぞ」  観客の声が聞こえて来ると、晶子は心の中で応えた。 ──いいえ、違います。あの人は、あれが標準です。  全ては狙い通り。広志のフォームは直して、和夫のフォームはそのままにした。というよりは、一週間で癖が直るはずはないと思っていた。  見てごらんなさい。ぶっちぎりよ──。
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