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翌朝、午前六時。家の前には二人の親子の姿があった。ここから神社まで、およそ四百メートル。二人の足にはピカピカのランニングシューズが光る。昨日こっそり買いに行った、お揃いの蛍光イエローだ。
「準備はいいか?」
入念にストレッチをした後、和夫は広志の頭をシャシャっと撫でた。
しかし、いつの時代も変わらないものだ。
なんで足が速いとモテるんだ?
その謎は未だに解けないままだが、どうやらこれも人類の遺伝子かもしれない。または神様の悪戯と言ったところ……。
そんなの、不公平だ。
和夫は「行くぞ!」と言って駆け出した。
昨日の夜買って来た靴は、調子が良い。「神様からのプレゼントだ」と言って渡した時、息子は目を輝かせた。
父である和夫の足元にもそれは輝いている。余計なことを言ったと後悔したが、我が子は気にしていない様子だ。
昨日の夜、靴を見た晶子が眉間に深く皺を寄せ、頬を大きく膨らませると、「あら、いいじゃなぁい」と言ってくれた。
大きさの違う二足の眩しいイエローの靴が、まだ薄暗い町内に足音を鳴らした。広志は和夫の幼い頃を、和夫は広志の未来を映すように、揃った動きで神社へと駆け出した。
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