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二週間くらい経った、ある日の朝。雨音で目覚めた和夫は、今日はトレーニングも中止だな……。と思いながらも、習慣的に体を布団から起こした。
「おはよう」
隣からモソモソと起き上がる気配がする。
「何だ、起きてたのか」
「うん、起きちゃった」
リビングで暖かいコーヒーを飲みながら、ふと和夫は広志に聞いてみた。広志の前にはココアが湯気を立てている。
「なぁ、広志。お前、好きな子がいるんだろ?」
広志は眉間に皺を寄せ、頬を膨らませると「好きな子なんていないよ」と言った。
……まぁ、そんなこと聞いたところで素直に答えるはずはない。しかし一つ分かったことがある。
相変わらずわかりやすい。
誰か目当ての子がいる。間違いない。
好きな子のために足が速くなりたいなんて、我が子ながら男らしい願い事だ。
トレーニングを始めた頃は、疲労感に負けて何度もやめようかと思った。しかし、そんな和夫の気持ちを奮い立たせたのは他でもない、広志だ。
当初、我が子を激励しながら走る姿が和夫の頭の中には浮かんでいた。それが、どうだ。
『お父さん、起きて! 走るよ!』
……恋の力とは恐ろしい。どこまでもまっすぐに人を突き動かす。広志はコーヒーを啜ると窓の外を見た。
「明日は晴れるといいな」
「うん」
「そうね」
……いつから居たのか知らないが、晶子も応援してくれている。家族全員で、必ずこの子の願いを叶えてやる。
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