和夫と広志の運動会

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 最近息子の様子がおかしいことは薄々勘付いていた。何か考え事をしている素振りを見せることが多い。妻の晶子に聞いても「まぁそんな年頃だから」と軽く流される。  しかし、それで良いのか。子どもは親が思っているより繊細だ。  和夫は息子を散歩に連れ出すと、近所の神社を訪れた。五円玉を渡し、お参りの作法を教えると、さり気なく様子を伺った。  坊主頭の下の眉間に、少しだけ皺を寄せ、頬を膨らませる表情──。  なんて、わかりやすい奴だ。  これは息子が何か一生懸命考える時の表情だ。嘘や言い訳を考える時にも同じ表情になってくれるので、便利である。  神社に来たのは正解だった。やはり何か、思い詰めていることがあるらしい──。 「広志。何をそんな真剣にお願いしてたんだ?」  和夫が思い切って聞いてみると、広志はまた眉間に皺を寄せ、頬を膨らませた。これは、考え事の合図だ。  「正直に話してごらん。お父さんと広志だけの、内緒にしといてあげるから」  和夫は穏やかな顔で広志の坊主頭をシャシャっと撫でた。  小学一年生の息子が抱える悩みとは何だろう。和夫は帰り道に好きなお菓子を買ってあげると約束し、息子の言葉を引き出した。 「足が速くなりますようにって、お願いしたよ」 「なんで?」 「だって足が速いとモテるから」
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