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課せられたこと
ウルスラを探すべく、ルーファスは森を進んでいた。
僅かだと思っていた、あちらこちらで見かける瘴気は、段々強くなっていってるように感じる。
辺りを確認しながら、次の街へ行こうとしていた時だった。
目の前に緑の光の粒を纏うようにしてフワリと風に乗りながら、美しく緑の長い髪を靡かせて一人の女性が現れた。
それは明らかに人間ではなく、ルーファスは驚いてその場に立ち止まってしまった。
「こんにちは、ルーファス。私が見えるのかしら?」
「あ、貴女は私を知っているのか?」
「もちろんよ。私は森の精霊ドリュアス。ウルスラの力を手にしたお陰で私が見えるようになったのね?」
「ウルスラを知っているのか?!」
「当然よ。ウルスラのいる場所を管理しているのは私なのだから」
「あの森を?! どこだ?! ウルスラはどこにいる?!」
「ふふ……そんなに慌てないで?」
ルーファスにも従者や騎士がついているが、ルーファス以外にドリュアスは見えていない。
精霊や霊が見えるという人はごく稀である為、突然一人で話し出したルーファスに皆が驚いたのだ。
「頼む、ドリュアス。ウルスラに会わせて貰えないだろうか?」
「そうね……あの子はとても寂しがっているわ。貴方に会いたくて、悲しそうにしているわ」
「なら……」
「だけど、また貴方がウルスラを傷つけないか、私はそれが心配なのよ」
「それは……悪かったと……自分の私怨で動いてしまった事を愚かだったと思っている。知らずとは言え、自分がしてしまった事は許されない事だと……だが謝りたいのだ。償いたいのだ。その機会を与えて頂けないだろうか……?」
「それは……貴方次第かしら?」
「私は何をすれば良い?! どうすれば良い?!」
「貴方は……その力をウルスラに返せるのかしら?」
「勿論だ! ウルスラに返せるのなら返したい! それでウルスラが助かるのなら!」
「ふぅん……そうなのね……じゃあ、呪いを退ける事はできるかしら?」
「呪い?」
「えぇ。森の一角に強い呪いのような不穏な空気を感じるの。それが日に日に広がってるように感じるのよ。それを貴方はどうにかする事はできるのかしら?」
「その呪い……もしかしてフューリズか……?」
「原因は分からないわ。だけどこのままにしてはいけないと思うの。良くない事になっていきそうで……」
「それは私が探している人物が関係しているのかも知れない。原因を突き止め、もしそうなら……いやそうでなくても排除する。私にはそうする義務があるのでな」
「それはウルスラの事があるから?」
「そうではない。いや……何にせよ、これは私がすべき事なのだ。誰のせいでもなく、誰に課せられた事でもなく……だ」
「では貴方に頼みます。森を守って。この呪いを取り除いて」
「承知した」
ルーファスの答えを聞くと、ドリュアスはついて来いとばかりに先を行く。
それを追いかけるようにして森を行く。
突然独り言を言い出したかと思ったら、何も言わずに移動したのだから、従者も騎士も困惑したが、ついて行かざるを得なかった。
「ルーファス殿下、どちらに行かれるおつもりでしょうか?!」
「え? あぁ……そうか、見えていなかったのだな。恐らく……フューリズの元へと行ける筈だ」
「何処にいるのか分かったのですか?!」
「それはこれから分かる」
「あ、はい……畏まりました」
戸惑う部下達を引き連れて、ルーファスはドリュアスの後を追っていく。
途中、別の精霊がドリュアスと合流した。その精霊は紫の髪が美しい、高潔な雰囲気を醸し出している精霊だった。
ドリュアスと何やら話をしてから、ルーファスの方をチラリと見て、それからプイッと顔を逸らした。
きっと自分はあの精霊に嫌われているんだな、とルーファスは感じた。それも仕方がない。それほど自分は愚かだったのだ。
自然に宿る精霊を敵視される程、如何に自分が愚かだったのかを思い知らされる。
その精霊が手を前に突き出すと、空間がいびつに歪みだした。それを見て、あの森へ行けたのは紫の髪をした精霊の力だったのだと分かった。
その精霊に嫌われてしまっていたのだ。ウルスラの元へ行けないのは当然だとルーファスは悟った。
ドリュアスがその歪みに入っていく。ルーファスも同じように歪みに入っていく。目の前で突然ルーファスの姿が消えた事に騎士達は驚いた。
辺りをキョロキョロ何度も見るが、空間が歪んでいる所が怪しいだけで、他に気になる所は何も無かった。
仕方なく騎士達も、恐る恐るその歪みに入っていく。
歪みを抜けると、そこはさっきとあまり変わらないように感じる森の中だった。
しかし、ルーファスにはドリュアスが言っていたような不穏な空気というのを感じていた。
それはフューリズを感じた時と同じ瘴気だ。
ゴクリと息を飲み、気を引き締めてドリュアスを見る。ドリュアスはルーファスを見るとゆっくり頷いて、それから先へと進んで行った。
ルーファスは騎士達も来たのを確認してから、ドリュアスの後を追っていく。
少し行った所で木々が少なくなってきて拓けた場所に出てきた。
そこには村があった。
その村はどす黒い霧に覆われているように見えて、それが森へジワジワと侵食してきていたのだと知った。
「ルーファス……この呪い……貴方に祓う事はできるかしら……」
「これは私が探していたフューリズと言う、復讐の女神の生まれ変わりの呪いだ。私はフューリズを止めなければならない……!」
「なら貴方に任せるわ。私たちで出来ることがあれば手を貸すつもりよ?」
「手を貸してくれるのか?」
「ルーファス……私も貴方に怒っていたの。私は幼い頃からウルスラの、その魂に惹かれてずっと彼女を見守っていたのよ。あの時は幼い貴方達が可愛くて、それを見ていられるのが嬉しかったの。だけどその後、久しぶりに会ったウルスラのあまりの変わりように驚いて、その原因を作った貴方を腹立たしく思ったわ」
「そう、か……」
「幼い頃を知っていたからこそショックだったの。だけど、貴方を嫌っている訳じゃないのよ? 人間は誰でも間違うわ。それを悔い改める事はできると思うのよ」
「私にチャンスを与えてくれると言う事なのだな? それがこの呪いを取り除く事なのか?」
「貴方の真摯な姿勢を見たいの。その力添えはさせて頂くつもりよ。他でもない、森を守ってくれる手助けをしてくれる事だし、ね?」
「分かった。では頼む……!」
にっこり微笑んで、ドリュアスは村へと消えていった。
ルーファスはまだよく分かっていない騎士達に、この村にいる筈のフューリズを捕らえる事を告げる。
一気に緊張感が高まった騎士達と共に、ルーファスは村へと踏み込んだのだった。
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