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「神様お願いです。どうか、恋をさせてください」
人間のように手を合わせて拝んではみたが、俺の身の回りに目立った変化は現れない。当たり前だ。神様なんて存在しないからだ。
おっと、これは少し語弊があるな。言葉というのは実に難しい。恥ずかしながら俺も未だに完璧に使いこなせているとは言い難い。
話を戻そう。
“ 神様自体は実在している ”
俺にとっての神様が存在していないという意味だ。
これでもまだ分かりにくいだろうか?
そうだな。言葉はできる限りシンプルな方が良い。ならば削ぎ落とせる限界まで要約した言葉で説明することにしよう。ずばり、
「俺が神様だ」
どうだ?分かりやすいだろう?
俺がまさしく神様で、お前たちがくる日もくる日も願いを捧げている相手だ。
人間的に言えば、
「初めまして」
「Nice to meet you」
「初次見面」
といったところだろう。
どうだ?神様に会えて嬉しいか?
うむ。お前たちが嬉しさのあまり泣いて喜ぼうが、膝から崩れ落ちて絶望しようが、俺が神様だ。その事実は今のところ変わりない。
地球に配属された第7443代神様の俺から言わせてもらうとすれば、人間という生き物は実に自分勝手だ。俺がお前たちの望むものを与えてもすぐに新しいものを欲しがる。火を与えたときだって、言葉を与えたときだってお前たちは感謝もせず、さも自分たちが見つけ出したかのように振る舞っていたな。俺は些か怒っているよ。神様だって怒ることはあるんだぞ。
お前たち人間のせいで、俺はひどく上の連中から叱られている。人間の世界でいうことろの上司にあたる存在が俺にもいるのだが、俺はことある毎にそいつらに怒られているのだ。どうしてくれる。
まあぶっちゃけた話、俺はあまり優秀なほうではない。
地球に配属された歴代神様はみな優秀だった(あくまで俺と比較して)。
第7442代神様までは人間なんて生き物は極少数しか存在していなかった。植物、昆虫、動物をどんどんと産み出し、地形を変え、色や音を創造していった。一種の生き物を増やし続けるなんて愚行を犯す神様は誰もいなかった。
いや、第7440代神様だけは俺に近いかもしれない。あの方は俺の師匠に当たる存在なのだが、人間が恐竜と呼んでいる生き物を作り出した。師匠は数々の恐竜を作り、その恐竜たちに沢山の能力を与えた。空を飛ばせたり、強靭な牙をつけたり、鎧のような肌を纏わせたりした。
しかし、師匠は些か夢中になり過ぎた。神様の業務もそっちのけで恐竜作りに専念する余り、職務怠慢だとみなされ上司に目をつけられてしまった。
結局、師匠には「恐竜を絶滅させるように」との命令が出された。
師匠はなくなく自ら作り上げた恐竜たちを全滅させ、地球担当の神様も辞職してしまった。
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